ん〜とね、今日は何も書かなかったな。
2003年11月11日 ネタ帳=======================
「香君。」
被害者側が大人しく『調書』の為に受け答えしていると、ノックも無く扉を開け、被害者を呼ぶ声がする。一緒にいた担当の刑事はその人物の出現にあたふたしている。
「どうも、どうはりましたん?警部さん?」
「どうもこうも無い。全く君という人は・・・。」
長くなりそうだな、と心の中で香はそう思うと、調書も大体終わったしと、めんどくさそうに腰を上げる。
「長くなるんやったら外で聞きますけど?刑事はん、調書はもうええでしょ?」
香のその言葉に、担当していた刑事も首を縦に振り『どうぞ』と言葉を溢した。それを聞いた香は警部の方を軽くパンパンと叩くと外へと促す。普通『警察官』のしかも『警部』にこんな軽々しい事ができるはずが無いのだが、香の場合は少し事情が違った。香はココでは『顔馴染』なのだ。休憩室の方へと足を運び、自動販売機の前にあるベンチに腰を下ろすと、香の考えが判っているのか、警部は小銭をポケットから取り出すと自動販売機の前に立ち、数ある中から『ホットココア』を選び、無言で香に渡す。そして自分も『ホットコーヒー』を購入すると、ヤレヤレといった様子で香の隣りに腰を下ろす。
「そんなに僕と話すん嫌でしたら、僕はどっちでもええですけど?」
ホットココアを受け取り、口元で息を吹きかけ、少し覚ましてから一口含み、舌を熱さでしたを火傷して香は溜め息をついた。警部は仏頂面のまま、コーヒーを啜っていた。そして暫らく沈黙が続き、警部が口を開いた。
「何故君はワザと事件に巻き込まれるようなマネをするんだ。たまたまそこに居た者がこっちに連絡をくれて迎えに行けたからよかったものの・・・。」
その言葉に、ご尤もです、と溜め息をつきながらそれでも、と香は言葉を紡ぐ。
「それでも、他の方が狙われてるんか、僕が狙われてるんかハッキリさせときたかったんです。僕やったらまだ力使えば済むことで、ええけど、他の方やったら、引き返すつもりやったんです。まぁ、どっちにしろ巻き込まれる事に変わりは無いですけどね。」
苦笑しながら言う香に警部はこれ以上に無いと言う程の特大の溜め息をつく。香はその仕草にまた苦笑した。
「心配してくださるんは嬉しいです。けど、僕は僕の仕事遣るだけですから。そないに心配せんでも僕は『強い』ですから。」
「あぁ、そうだったな・・・。処で、相手さんの取り調べがまだ終わっとらんのだが、来るか?」
普通被害者である香にそんな事を訊く訳が無いのだが、香は二つ返事で応えると、丁度良い温度に下がったホットココアを一気に飲み干す。紙コップで出来たそれをゴミ箱に投げ入れると、立ち上がって警部の後をついて行った。
取調室には沈黙が続いていた。男が何も喋らないのだ。明らかに『変質者』の格好をしている為、その事は仕方が無いと思っているのか、そこの部分はすんなりと容疑を認めたが、香に対する所謂『猥褻行為』については否認状態。担当の刑事である坂下は、さっさとこの取調べを終わらせたいと願っていたが、証拠が無いのでは、この犯人の口を割らせる他は無いと思っていたので、半ば諦め状態だった。そこに、ノック音がやたらと大きく響いた。
「香さん?」
そこに現れたのは紛れもなく『被害者』である香の姿であった。一見容姿は中性的とでも言うのか、一瞬の判断では性別がどちらかなのか見分けがつかない。その香が取調室に入ってきて、坂下の隣りにあったパイプ椅子へと腰を下ろす。ドアを閉める寸前、香の後ろに警部の姿が見えたため、警部が連れて来た本人である事をすぐに坂下は悟った。
「坂下さん、ちょっと邪魔するで。あんさん、いい加減口割ったらどうなんや?」
香は椅子に座って一息つくと、坂下に明るい声を掛けてから、凛とした声で犯人と対峙する。被害者が加害者と面と向かって話をするなんて普通の神経では出来ない芸当だ。それをいとも簡単に、この17歳というまだ20にも満たない子供がやってのける。坂下は香の強い精神に、何時もながら感心する。
「被害者の僕が出て来て、なんもおもわへんのん?」
犯人は多少の焦りの色を見せるものの、『被害者』の証言だけでは罪には問われない事を知ってか知らずか、だんまりを決め込んでいる。
「言っとくけど、証拠はあんねんで。」
冷ややかにそう言い放った香の瞳には、優しさなど無かった。『そんなの嘘だ!目撃者も居るわけない!!』とでも言いたげな顔をしている犯人の言葉を制し、ポケットをごそごそと探る。そしてある物を取り出した。
「・・・れ、レコーダー?」
男はそれを見て愕然とした。
「せや、あんさんが僕に声掛けて来た時からの会話が全部入っとる。僕はあんさんの行動も全てお見通しやったっちゅう訳。万が一に備えて、これいじくっとったん、あんさん気付かんかったんが運の尽きやな。」
『悪い事はするモンや無いなぁ?』と香は笑った。ガクッと犯人は肩を落とし、容疑を認め、その後の調書もスムーズに行われた。香は部屋の外へ出ると、後ろ手でドアを静かに閉めた。目の前には警部の姿があった。その姿に香は苦笑した。
「待ってて下さりはったん?僕は僕の仕事をしただけですよって。」
「・・・違う。待っていたのはお前の為じゃなく仕事の為だ。報告書を提出しておけ。」
「えぇっ?!今回僕被害者なんですけど??しかも調書はとったんやし??」
警部のその言葉に些かオーバーなリアクションを返して見せるが、警部の表情は変わらない。その顔に溜め息をつくと、また苦笑した。
「今回の君の行動は、警察官としての行動か、それとも一般人としての行動か、どっちだ?」
「僕は警察官である前に1人の人間ですさかい、今日は『被害者』っちゅーことで勘弁してくれはりませんか?」
苦笑交じりにそう言うと、警部は仕方が無いなといった様に肩を落とすと、香の容姿をより中性的にしているショートカットの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「処で、今回の足の錘は何キロだったんだ?」
「・・・両足で30キロ。ちょっと重すぎたのか犯人連行するのに時間かかってしまいました。すんません。」
突然のその問いに少々唖然としながらも、バレていたのなら仕方が無いと、頬を掻きながらそう応えた。
「能力のコントロールができるように地道に鍛錬するのもいいが、いざと言う時故障しました、じゃ示しが付かんぞ?それに携帯電話はいつも携帯しとらんと意味が無いだろう?判っているのかその辺り。」
その言葉に香は大きな溜め息を一つつくと、頭を項垂れて、すみません、としかいえなかった。
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