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「ははら、ほこひきっへいっへるへほ」
「あーあーあー!もぅ!食べるか喋るかどっちかにしてくんない?」
暫らくの沈黙後に隣の波多野は再び口を開いた。
「だから、さっきの所右だったんだってば」
「はぁ?タイミング悪っ」
私はいったん乗ってた自転車を降りてUターンをする。
まったく、こいつを道案内に選んだのが間違いだった気がする。
でも自分じゃ絶対迷うし、迷う前から道わかんないし。
だから無いよりもマシかなーと言う程度のナビゲーター。
居ないよりはマシ・・・だと思う。
とりあえず目的地に着々と近付いている訳だし。
ただ、タイミングの悪さとこの食い気さえどうにかしてくれたら・・・。
私達は行く筈だった学校からどんどん遠ざかって、山の方へ向っていた。
朝起きたら寝覚めが悪くて、その招待はハッキリしてたけど、そこへ行くにはどうにもこうにも自分だけでは頼りなくて。
と言うよりも寧ろ自分だけで行くのは不可能だ。
この辺は場が悪すぎる。その影響でほとんど毎日寝不足だ。
毎晩訪れる客達の相手をするのもそらマナーかな、って思ってた時期が懐かしい。
今じゃ完全無視。ただ単に睡眠妨害になる相手なだけ。
そんな中でも波多野は毎日って言うほど家に通ってたし、話もそこそこ面白い。
眠れない夜なんかは、こいつらと話して気持ちを楽にさせてもらってる。
と、まぁ、少しは利害が一致しない訳でもないのだけれど。
「ぅわー寒い寒い!!」
「あー、もう近くだもんねー持ってきたカーディガン着たら?」
「気休めなんて言わないで!
着ても意味無いのあんたが一番良く知ってるでしょ!」
「あーぁ、可愛い顔が台無しだよ〜?」
「だ〜れ〜が〜そんな思ってもないようなこと口にするのはこの口かー――っ!?」
振り回した右手。波多野は笑ってそれを避けて、ぽんと背中を押す。
合図だ。半径50m以内に居る、事になる。
ゆっくりと辺りを見渡す。ふと神社の社から何かが出てくるのが判った。
「待ってたの、ずっとここで」
そう言った少女は躊躇いもなく近付いてくる。
「あたしね、もう良いかな、って思うの」
髪の長い、中学生くらいに見える女の子だ。
「別にそれほどこの世を恨んじゃいないのよ」
確かな近付き、その一歩一歩が確かなほど彼女の記憶がなだれ込む。
夜道に1人歩いていた彼女をひき逃げした犯人を彼女はもう追おうとはしていない。
たった一瞬で奪い取られた命を悲しんでいる訳でもない。
ただ、単純に、家族に安心して欲しかっただけなのだと、彼女の心は語る。
でも一緒に居れば一緒に居るほどツライ思いをさせているようで、申し訳ない。自分が居たのでは、その傷を忘れる事もできないだろう、と。
和やかで穏やかな記憶が次々になだれ込んでくる。
「ほら、仕事だよ」
いつの間にか茫然自失となっていた自分に波多野が呼びかけた。
目から溢れ出す涙を止める事はできない。
だけど、だけれど。
「だから、お願い届を出したの」
涙で視界がぼやけてよく見えない。多分彼女はゆっくりと目を閉じたのだろう。
昨日お願い届を出しに来ていたのはこの子だ。
鈍った頭でよく思い出してみれば、確かにそうだった。
お願い届は死者が輪廻の輪っかへと戻りたい時に術師へと出すもの。
そのお願い届を受け取った日の朝は、必ずといっていつもより『寝覚め』が悪い。
お願い届を受け取るのはいつも夢の中だ。
彼女の手を取って、自分の胸の位置まで持ってこさせると静かに言霊を口にした。
彼女はうっすらと笑顔を浮かべると、光に包まれた。
「さよなら・・・」
手を離せば彼女の身体は宙へと浮いていく。
次第に輪郭はなくなり、魂魄のもとある形へと戻った。
消え去る前に、ここを後にしよう。それが契約完了時の掟だ。
「波多野っ」
「はいはーい」
急いでそこを後にする。見送るのは、私達の務めではない。
彼女は今、輪廻の輪へと戻ろうとしている。
それは極自然な事なのだから、私が泣いたってどうにもならない。
でも、何故自分なのだろうとか
何で生死の境ではないのだろうとか
そんなことは思ってしまう。
死者達は思い残す事があるとこの世に少なからず留まる。
その間悲しみにくれる者や憎悪する者もいる。
そんなに苦しい時間を過ごすならば、さっさと輪廻の輪へと返してやりたいのに。
それができないのが悔しい。
しかも自分はお願い届を出した本人しか送ることができない。
負の感情を解き放ってあるべき姿へと戻す事はできない。
何のための能力だろう・・・。
そう思うと遣る瀬無くなる。私は家へと真っ直ぐ帰途へ付くと自転車をこぎ始めた。
またお願い届が出される前に、この子の記憶は封印しなければ、自分が耐えられなくなってしまう。
そんな精神力の弱さも嫌いだ。
こんな時は早く撃ちかえって寝よう。それが一番だ。
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何やらよく訳の判らんもんが出来上がってしまったぞ。
どうしよう・・・。
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