音楽準備室にいても 巡回中でも
 気づけばお前さんの音色を探している。
 俺は教師で、お前さんは一生徒。
 それがこんな特別な感情になっちまうなんて
 俺はまだまだ修行が足りんのかね。

 コンクールが始まる前に
 俺を訪ねてきたお前さんに
 文句を言うならアレに言え、って言ったのは本心だった
 俺には見えないが、アレ、見ちまったんだろ?

 からかうようにそう問えば
 お前さんは困ったような表情をして
 諦めて俺の元を去った
 そう それで良かったんだ

 他のやつらはコンクール経験者が多いおかげで
 コンクール担当の俺の仕事も大してなかったが
 お前さんの 一所懸命な姿が目に焼きついて離れなかった
 おいおいよしてくれよ 面倒なことはもうこりごりだ

 遠い、海を隔てたあの国で
 若いやつが持つ独特の情熱とか
 苦い経験とかってやつは嫌ってほど経験して
 こんな感情 二度と抱くもんかって思っていたのに

 なんでだろうな
 コンクールが終わった今でも
 お前さんの音色から目が離せないでいる
 目が、って言うのはなんかおかしいな

 そう、捕らわれているのは俺の心だ・・・

 お前さんの倍以上生きてきて
 苦渋辛酸舐めてきて
 今更 そう 今更なんだ
 俺は、また、逃げるのか?

 音楽からも 唄うことからも
 自分の正直な気持ちからも・・・
 でも今はまだ 伝えちゃいけない
 せめて お前さんが無事にこの学院を卒業するまでは・・・

「金澤先生?」

 音楽準備室の扉を開けて ひょっこりと顔を覗かせる日野

「何だ? お前さん、まだ残ってたのか」

 平静を装って いつも通りに

「先生のこと探してたんです。森の広場にいなかったんで、こっちかな、って思って」

 吸っていたタバコを あわててもみ消す
 俺を探していた? それはどういう意味だ?

「どうした? 面倒なことはごめんだぞ?」

 茶化すようにそう問えば
 日野はわかってますよ と答えた

「今度のアンサンブルのことなんですけど、加地君と土浦君がけんかしちゃって、何とかならないですかねぇ」

「加地と土浦ねぇ・・・月森と土浦が仲が悪いのは判るが、どうして普通科同士のあの2人が」

「うーん、土浦君って音楽科に対しての対抗意識みたいなの持ってるじゃないですか、多分それが原因だと思うんですよね。加地君は音楽が楽しめればいいって言うタイプだから、火原先輩達とも仲が良いし」

 確かに土浦は音楽科に対して良い思いはしてないだろうが
 お前さん、加地がこの学院に転校してきた理由、忘れたのか?
 それから、止めていたはずの音楽をまた始めようと思った理由
 明らかに加地はお前さんを・・・

 天羽がいってたな
 加地は日野の練習を聞いて傍に居たくて転校してきたって
 そんなやつが傍に居ても お前さんはアンサンブル重視か。
 音楽への情熱は認めるんだが、少し疎すぎやしないか?

 そんなやつとみすみす2人きりになんてしたくないんだが
 こいつの思考はあくまでコンサートを成功させることにむかってる
 それじゃぁ、アドバイスしないわけに行かないじゃないか
 土浦がこいつのことを特別に思ってることも知ってるが

「そりゃ大変だな。別々に2人と練習して話した方が良いんじゃないか? お前さんが仲介人になれば、やつらの気持ちも落ち着くだろうよ。がんばれよ、若人!」

 そう言って日野の方をぽんとたたく
 誰かと一緒に練習してるのを見る機会は最近では多い
 だから、別に特別何を感じるわけでもない
 だけど、だから。

「まぁ、お前さん自身が困った時には何でも聞いてやるさ」

「!先生が先生みたいなこと言ってる・・・」

「あのなぁ? 俺はこれでも一応教師だってーの!」

 そう言って呆れた声を出せば
 お前さんは冗談です、って笑うから
 すごく 太陽みたいにまぶしく 笑うから
 俺はこの感情の行き場に困ってしまう

「先生?」

 肩に手をかけたまま脱力していると
 日野が後ろを振り返って顔を覗き込んでくる
 やばい、これは反則だろう・・・
 俺は理性に鍵をかけて 触れたい気持ちをじっと我慢する

「あぁ、いや、なんでもないんだ」

 覗きこんでくる日野から目をそらすと
 ただそれだけ言った
 教師と、生徒
 そう こうやって話して 少しじゃれあう

 それが限界ってもんだろう

「あ、そうだ、先生」

 日野が思い出したかのように言葉をつむぐ

「また練習、聞いてくださいね」

 そう言って笑う 純真な混ざり気のない笑顔
 コンクール中は苦しそうな表情をすることが多かった
 でもヴァイオリンを弾いているときは幸福そうだった
 お前さんは今 ヴァイオリンを弾いて皆で合わせる事が楽しんだろうな

「まぁ、聴くだけなら聴いてやるさ」

 本当は音楽室で森の広場で
 巡回中の練習室の廊下で講堂で
 お前さんの音は俺の耳に心地よくて
 つい居場所を探しては聴いているのだけれど

「きっとですよ!」

 そう念を押して、日野は音楽準備室を後にする
 教師と生徒
 俺が後15ほど若ければ・・・なんて
 できもしないことを考えてみる

 同じ時期にこの学院に通う生徒だったら
 お前さんは今と同じように俺に笑いかけてくれるだろうか
 それとも音楽科と普通科で
 全く違う生活をしているだろうか

 それなら 今の教師と生徒という関係も悪くない
 俺が音楽教師になったのも運命だったのかもしれない

 日野、お前という将来有望なヴァイオリニストと出会うための

 そう考えれば、この歳の差も、悪くない
 
 
 
 
 
 
 いつか話そう 対等に向き合って
 この気持ちを いつか・・・
 
 
 
+++++++++++++++++++++++++++

はい、金やんバージョン。
今度はポエムではなく果てしなくSSチックですね。
独白には違いないですが。
漫画の方では金やんが日野ちゃんに落ちることはなさそうなので
(感化されてもう一度声楽の道に戻ったとしても)
2設定での金やんを書いてみました。
愛ラブ金やん。金やん至上主義。
アンサンブルでの険悪状態
まず最初に加地と土浦の険悪が入るはずはないのですが
険悪のとき方を金やんに相談しに行くヒロイン、ということで。
だってシステム説明だけで判っちゃうのってなんか寂しくないですか?
誰かに助けてーって助けを求めちゃだめですか?
この場合王崎先輩が適任なんだろうけど
彼、ほら、ウィーンのコンクールに行ってる最中だから。
メールで相談、ってのも考えたんですけど
やっぱり金やんに相談してるヒロインを書きたかったのです。

ってか似非金やんでごめんなさい。
火原の性格は掴みやすいんですけど
この人掴みどころないから。
のらりくらりと交わされそう・・・

とりとめもなく金やんでした!
 
 

コメント

nophoto
たんぽぽ
2007年11月7日21:30

先生と生徒って、恋愛アリですよね。
何年かたって
それでも好きなら
ううん。もっともっと好きになっていたら。

年齢の差は、関係ないもんね。

すてきな小説
ありがとう。

k
稚維
2007年11月8日11:20

すみません、二次創作ばかりで。

少女マンガな世界では
結構教師と生徒って設定見かけるんですけど
金やんの場合はどうなのかなぁ・・・
2の恋愛での最後、金やんはどこか外国に
喉を治療しに行くわけですが
アンコールではどんな扱いになってるのかな・・・
喉を治療しに行く、って事は
教師辞めて、オペラ歌手に戻る、って事なのかな。
でもそうすると、・・・どうなるんだろう。
日野ちゃんはヴァイオリンを続けるとしたら
星奏学院の付属大学に行くのかな・・・
2で、音楽科への編入の話も出たことだし。

それでは、コメントありがとうございました。
k

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