「うわ、大丈夫? 志水君!」

 あれ、日野先輩の声が聞こえる・・・
 僕は・・・
 そう思ってた支えられていた自分の身体を起こす。

「日野先輩、ありがとうございます」

「って、言ってる傍から! 志水君、どうしたの? 熱っぽいよ?」

 心配そうな日野先輩の顔が、僕のボーっとした頭に投影される。

「えっ、志水君大丈夫っ??」

 あ、この声は・・・火原、先輩?
 何で日野先輩と一緒にいたんだろう・・・

「大丈夫です。ちょっと眠いだけです」

「それ所じゃないよ! 取り合えず保健室行こう?」

 日野先輩の心配そうな声が、耳に心地いいだなんて、なんでだろう?
 ボーっとする頭の中、火原先輩が僕をおぶる。
 日野先輩は、ずっと僕に声をかけててくれる。
 あぁ、何だか良い音楽が見つかりそうだ・・・
 
 
「志水君、寝ちゃったね。何か幸せそう」

「そうですね。じゃ、先生、後お願いします」

「はいはい、日野さんも火原君もご苦労様」


 あ、あれ・・・?
 何だかすごく良い旋律ができたと思ったのに・・・
 視点がはっきりとしないまま、僕は身体を起こした。
 ・・・保健室・・・
 あぁ、そういえば、眠りにつく前に日野先輩の声が聞こえた気がする・・・

「あら、志水君、起きたの?」

「はい、でもなんで僕、ここにいるんでしょうか」

「熱を出して今にも倒れそうなのを日野さんと火原君がここまで連れてきてくれたのよ」

「先輩が・・・」

 そう口にして、日野先輩の顔が浮かぶ。

「ちゃんと後でお礼しなさいね」

 呆れたように先生は言うと、僕を送り出してくれた。
 
 
 
 
「あ、日野先輩・・・」
 
 音楽室で日野先輩を見つけると、僕は声をかけた。

「ん? どうしたの、志水君?」

「先輩は可愛いものは好きですか?」

 突然の僕の質問に、日野先輩は戸惑った表情をして
 そしていつもの明るい笑顔になると

「うん! 勿論! 可愛いもの好きだよ!」

 そう答えてくれたことに、僕は心底安心した。

「え? 何々? 何の話?」

 そこに後ろから火原先輩が顔を出した。

「火原先輩は、可愛いもの好きですか?」

「おれ? うん、好きだよ?」
 
 2人の笑顔は、とてもまぶしい。
 僕は嬉しくなって、2人を連れて音楽室を後にすると
 2人を森の広場まで案内した。

「・・・見せたかったものってこれ?」

 日野先輩は物珍しそうに、にっこりと笑いながら3匹の子猫を見つめる。

「うわー可愛いね! でもどうして?」

 そういう火原先輩も嬉しそうだ。

「はい、保健室の先生が、ちゃんとお礼しなさいって・・・」

 僕は、日野先輩の笑顔を見ると口元が思わず緩んでしまう。

「おーい、ウメさんやい」

 ガサガサと、木々を分けるようにして現れたのは
 金澤先生。猫缶とねこじゃらしをもってるってことは
 また遊びに来たんだろう。

「おぉ、ウメさん、頑張ったなぁ・・・ってお前さん達、何でここにいるんだ? せっかく俺が一番にウメさんの子供を愛でようと思ってきたのに」

「志水君が連れてきてくれたんですよ!」

「ほぉ、志水が・・・」
 
 4人で、子猫たちとウメさんを囲むようにして屈みこむ。

「あれ、真ん中の猫、寝ちゃいましたね」

「ん? 志水みたいなやつがいるなぁ・・・よし、お前さんにはケイイチと名づけよう」

 そう金澤先生が言うと、子猫が嬉しそうに鳴いた。

「あはは、この子も気に入ったみたいだよ」

 火原先輩が面白そうに笑っている。
 日野先輩が、そっと手を出して、子猫に触ろうと・・・
 あ・・・

「おぉっと、お前さんは触っちゃだめだ」

「えぇ〜? 良いじゃないですか、金澤先生!」

 触れないことに怒りを覚えたのか、日野先輩は金澤先生に
 激しく抗議する。
 それを宥めるように、先生は言葉を紡ぐ。
 
「お前さんの手はヴァイオリンを弾く手だろうが」

「このくらいどうって事無いですよぉ」

 まだ日野先輩は諦めてないんだ。
 僕でさえ、躊躇して子猫には触ってないのに・・・
 金澤先生は、先輩の抗議の声なんて気にせず子猫の説明をする。

「子猫の時はな、爪を仕舞えないんだ。それでもしお前さんの指に傷が付いてみろ。演奏に支障がでるだろ。なぁ? 火原?」

「うん、ヴァイオリンは特に繊細な楽器だって言うから香穂ちゃんは触らない方が良いと思う・・・月森君がいつも言ってるでしょ?」

「えぇ〜? 火原先輩まで・・・」

 火原先輩の追い討ちに、さらに落胆の色を濃くする。

「まぁ、おれが抱いててやるからお前さんは頭を撫でるくらいで、我慢しなさい」

「はーい」

 そういった先輩はひどく落胆してはいたけれど
 子猫の頭を撫でている時は穏やかな表情をしていた。
 僕たちはしばらく子猫たちを愛でた後、それぞれ教室に戻っていった。
 
 
「おーい、志水!」

「金澤先生?」

 呼び止められた僕は、丁度チェロを抱えて帰る途中で。

「お前さんが子猫達の第一発見者だ。ちゃんと名前、付けてやれよ?」

 そう言って金澤先生は、いつもの白衣にサンダル
 それから猫背で、手をひらひらと振りながら
 僕の前から去っていく。
 
 
 ・・・うーん、どうしよう。
 子猫達の名前が決まらない。
 日野先輩、まだ起きてるかな・・・
 そう思って携帯に手を伸ばす。
 日野先輩ならなんてつけるだろう・・・

 数分後、返信メールが来た。
『私の名前をつけて』
 確かにそう書いてあった。
 ケイイチとカホコ・・・
 僕は自然と、口元が緩むのを感じた。
 でも、じゃぁもう一匹は?
 
 
 僕はまたチェロを弾きながら考えることにした。
 
 
 そうだ、今度、子猫たちに首輪を買ってあげよう。
 何色が良いかな・・・
 うーん、秋だから・・・
 僕の頭に浮かんだのは葡萄。
 うん、紫・・・葡萄色の首輪にしよう。
 
 

 
 
+++++++++++++++++++++++
 
 
なんて難しいんでしょう、志水君。
なんて偽者なんでしょう、志水君。
2設定、発生したイベントを基本としています。
なんか、火原がことごとく邪魔しているような気もしますが
志水君は気にしてないでしょう。
金やんもなに気に香穂ちゃんを大事にしてる、ってのが
目に見えますなぁ・・・
 
 
 
こっそりとお題も使ってみました。
最後、葡萄色だけ、すんごく困りました。
 
 
 
タイトルが疑問系なのは
志水君がまだ自覚前、だと思うので。
 
 
 
だって志水君は
「寝ても覚めてもその人のこと以外考えられない」
状態までになるんですから。
 
 
まだこれは、そこまで言ってない、って事で。
 
 
 
 
取りとめもなく志水君でした。
 
 
  

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