お題:「イルミネーション」「こぼれる」「紅色」
2007年12月25日 ネタ帳行き交う人々、街にあふれるイルミネーション。
それを『綺麗だ』と評する人は多いかも知れないが、自分には電飾を巻きつけられた木々が痛々しく見える。
自然な姿ではなく、人工的な『幻想』的な世界。
例年よりは暖かいらしいが、それでもやっぱり、この寒さは身にこたえる。
別に年取った、とかそういうのを理由にはしたくない。
コートのポケットに突っ込んでいた手を出し、ぐるぐる巻きにしたマフラーを口元まで引き上げて、空を見上げた。
この季節なら、この明かりがなかったら、澄んだ空気で星がたくさん見えるのに・・・。
そんなことを考えながら、人の群れにぶつからないように、縫うようにして大通りを行き過ぎる。
そして思い出した。あの過ぎた日々のことを―――
「あなたはやさしいから」
そういった君の瞳には、涙が溜まっていて。
「だからわたしを傷つける言葉を言えないのよね」
別にそういう訳じゃない。
そう口にしようとして、押し黙る。
君のその唇が、更に言葉を紡ぐのを見たくなくて。
「だから、さよなら」
俯いた自分にかけられた、そんな一言。
理解っていた、始まったときから、終わりが来ることは。
見えていた、なんていったら失礼か。
親の言いつけのままに、俺に会って、俺の恋人として、そして妻として過ごした時間は君にとって幸福だっただろうか。
上司命令。
別にそれが嫌だった訳じゃない。
ただ『見合いしないか』と持ちかけられ、それに応じた。
始めてあったときの第一印象は、綺麗なひと、単純にそう思った。
話せば話すほど、距離は近くなり、それぞれの趣味を知り、そして、自然な流れで結婚した。
すごく自然なことで、俺にもこんな人生があるのか、と不思議に思ったほどだ。
彼女の父親は、俺の『特能課』としての実績を知っていて、それで持ちかけたのだろう。
将来、階段を上ることを想定して、自分の側に置いておきたかったのかも知れない。
『敵に回すと厄介だ』、ただ単純にそういった理由かもしれない。
彼も知らなかったのか、彼女が知らされていなかったのか、それは判らない。
幸せな家庭を築こう、そう思っていた。
でも、気丈に見せていた彼女の、時折見せる怯えた様な表情に、伸ばしかけた手を引っ込めた。
何を、怯えているのか。
今までの自分を顧みれば、それは至極簡単な結論で。
でもその時の彼女の揺れる瞳に、その真実を知りたくて。
触れた途端、彼女は小さな悲鳴に似た声を上げてその場に崩れるようにして泣き始めた。
その瞳は見開かれ、俺を見ている。
―――違う。俺じゃない。俺の中にある『テレパシスト』の俺を見ている。
嗚呼、気づいてしまったのか。
嗚呼、君も受け入れてはくれないのか。
理解、していたつもりだった。
この『能力』がある限り、他人からは愚か、身内からも距離を取られると言うことは。
だから隠して生きてきた。
刑事になってから、俺の尋問の仕方に興味を持った研究所が、俺を研究所での最初の『精神感応者』として登録したことも、それは俺の生きる『場所』を与えてくれたこととして感謝していた。
卑屈になっていた心を、ただのコンプレックスでしかなかった『能力』を、初めて、利用価値のあるものとして認識させてくれたから。
なぁ、そんなに変か? そんなに嫌われなきゃいけないか?
そんな疑問を持って、泣き崩れる彼女の父親に連絡を取ると、俺はしばらく彼女に会わない方が良いと思い、傍を離れた。
しばらくして、上司伝手に、彼女が落ち着いたことを聴き、家に戻るように促された。
それはある種の拷問に近い―――
それでも戻らないわけにはいかなかった。あそこは俺の家だし、荷物もあそこにあるわけだし。
家で迎えてくれた彼女は、昔のようでいて、まるで違っていた。
俺を気遣う振りをしながら、俺の顔色を伺っている。
彼女が何を考えて、どうしてそんな行動をとるのか、心を見なくても明らかだった。
寧ろ、見るほうが怖かった。
気づかないフリをして、その時折見せる怯えた瞳を、見ないフリして。
表面上は、仲の良い夫婦だったことだろう。
過度に干渉せず、お互いの距離を保って。笑いあう。
滑稽に思えたけれど、彼女が我慢をしていることを俺が気づいているなんて、言えるわけがない。
彼女の精一杯の譲歩。理解しようと努め、それでも理解できないと怯え、それでも、受け容れようとその細い身体で虚勢を張っている。
なんて、弱い生き物だろう。
心なんて覗かなくても、理解ってしまうほど近くにいるのに。
覗かれないか心配で、必死に心を隠している。取り繕って、笑って。
幸福な家庭って何だろうか。
俺は、心を覗くことに抵抗感がある。それは他人との距離を忘れさせるから。
時々無理やり捻じ込むように入ってくる他人の強い思考は、頭痛をもたらし、決して気持ちのいいものじゃない。
愛されていた記憶はあるのに。
それよりも鮮明に拒絶されたときの記憶が蘇る―――
仕事上、刑事課の奴らとはそれなりに付き合いがあった。
何より俺を可愛がってくれた警部が、俺を『普通』として扱うから、他の皆も、他の『能力者』と同じように。
多少の畏怖の念はあっても、拒絶ではなく、それは『仲間』としての扱い。
誰だって、自分の心が裸にされればいい気はしないだろう。
そんな『能力』を持ってる俺に対してあまりいい感情を抱かないのも頷ける。
俺がもし『普通』の人間だったなら、俺のような『能力』を持った人間とは付き合いたくなかっただろう。
だがしかし、Ifで括られた括弧の中は、飽くまでも想像の域でしかない。
実際に俺は気づいたときには他人の思考がまるで自分のもののように感じてしまっていたし、その『能力』が忌み嫌われるものだと気づいて隠し始めるまで、そう時間はかからなかった。
兄弟喧嘩には、必ずといって良いほど先回りして俺が勝っていたし、親に褒められたくて望まれていることを自然と先回りしてやっていた。
俺にとって『自然』なことでも、家族にとっては『不自然』なことだったんだろう。
俺のことをしきりに不思議がっていた。疑念を抱いていた。さすがに、それが所謂、超能力と呼ばれる類のものであることまでは想像がつかなかったらしいが。
気づいて、俺はそれを封印して、自分の自分自身の力だけを頼りに、進学し、それなりの成績を収め、警察官になった。
まさかそこに研究所があるなんて知らなかったけれど。
今でも瞼の裏に焼きついてはなれない、モノクロの世界とやけに鮮やかに残った君の唇に乗った紅色が、胸の奥を締め付ける。
足早に、駅前から、路地を入ったところにあるマンションへと歩を進める。
慣れた手つきで、暗証番号を押し、エレベーターであがっていく。
蛍光灯の明かりのついた廊下を、目的の部屋まで進む。
インターホンを鳴らして、微笑む。
「あ、兄さん、お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」
この子のこぼれんばかりの笑顔に、どれほど癒されてきただろう?
同じ『能力』を持った、過去に傷ついた記憶を持つ『後輩』。
このフロアに住むのは多かれ少なかれ、過去にトラウマを持つ、世間から隔離された『能力者』たち。
それだけでも、心が落ち着く。
ここには、俺を畏怖するものは居ない。
「今日は何が食いたい?」
「うーん、特性ピラフ」
「お前は、そればっかりだな」
「だって兄さんの作るピラフはサイコーやもん!
せや、最近新入りが増えたんやけど、その子呼んでもええかな?」
俺が頷くのを確認して、香は何件か先の近くの扉を叩いた。
俺は沈んでいた気分を浮き上がらせて、キッチンに立つ。
下準備をしていると、扉が開くのが判った。
「お邪魔します」
ちょっと控えめな声で紡がれた言葉は、それでも存在感は希薄ではなく、寧ろ強い印象を受けた。
「あぁ、いらっしゃい」
それが、俺が奏くんと初めて会った夜。
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はい、カテゴリとしては『能力』ですね。
良嗣兄さんの過去話。というか、何と言うか。
香があっちにトリップしている間は
まだ、明確な『離婚』という形はとってません。
ただ、避けられている、状態で。
香が帰ってきてから、ますます香に構いっぱなしになりつつ
奥さんの気持ちも配慮しつつ、距離を取りつつ
でも、自分から壊すことはしたくない、といった感じですか。
まぁ、良嗣さん自身に彼女が好きだ
という気持ちが無くなったわけじゃなくて
要は、彼女の問題、なので。
やっぱり、『能力者』と一般人ではきつい物があるのかな、と。
その分、香は恵まれてますね。
トリップした先でも、それは面白がれこそしろ
拒絶反応を受けなかったので。
まぁ、香がコントロールに一杯一杯だったのもあるけれど。
そして、新キャラ『奏』。
香と良嗣、警察関係者、研究所の皆さんは『ソウ』と呼びますが
実は彼女は『時のカルテ』の方の繋がりで出そうと思ってたキャラです。
そっちでの呼び名は『カナデ』。
だから彼女が過去に旅してきた場所では殆どの人が
彼女のことを『カナデ』と称します。
彼女は何でか時空の歪に落ちやすい体質、と言いますか
色んなパラレルワールドを経験してきていますので
使える技はESPに限りません。体術、魔法、忍術、錬金術・・・
その辺の能力は研究所にも秘密にしてあります。
基本能力は『心眼』『先読み』。
流れを読むことに非常に長けた子です。
流れ者なのでこの世界では異物的存在ですが
それなのに存在を認められていると言う稀有な存在。
空間との相性が良いらしく、どの世界でも拒絶反応が起こることはなく
文字も言葉も普通に通じるようです。
ただ、香のように異空間転移は自分の意思ではどうにもならないようです。
そして、あまりにも長い時間飛ばされ続けてきたので
自分の年齢をはっきりと覚えていません。
『純血日本人』というのは遺伝子学的にもはっきりしてるのですが。
そして、今、彼女を軸に、幻水5のトリップものを捏造中。
載せるか否かは、その時のノリで。
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