暗い部屋の中、ごそごそと動く物体が在る。
 本が焼けるから、とカーテンを閉め切ったその場所は、昼間でも薄暗いが、それでも十分な光が差し込む。
 本棚の間で一つ一つ本を手に取って何かを探していたその人影は、今自分の持っている本をパタンと閉じると、ため息を吐いた。
 
「・・・どこ行ったんだろう」
 
 はふ、と息を吐き出したその声は、わずかに震えている。
 随分と長い間そこで作業していたのだろう、その人物の手は埃にまみれ、何年も埃が溜まっていた場所には足跡が残されている。
 随分と前にここから出してきた1冊の本。
 そこに挟んだ一枚のしおり。
 そして片付けてしまったその本のタイトルは、自分の記憶から抜け落ちてしまっている。
 改めて辺りを見回すが、そこは整然と並べられた本棚と、本のみ。
 埃くさくて、インクと古びた紙のにおいが充満したその部屋は、はっきり云って居心地の良い場所ではない。
 いくら本が好きとは云ってもこれは溜めすぎだし、虫干ししなければ本が傷むというものだろう。
 少し空気を入れ替えようとその部屋の東にある窓により、カーテンを開けて、一気に窓を引き上げた。
 途端に部屋の空気が回り始め、爽やかな緑色の風が入ってくる。
 柔らかな草木のにおいが鼻をくすぐると、すぅっと息を吸い込んだ。
 一年で一番好きな季節。
 この時期の柔らかな自然の光も、草木のにおいも、雨の前の湿った空気も、何もかも愛しいと感じる。
 窓の前に立つ大きな樹の木漏れ日が、一瞬強くなって思わず目を細めた。
 瞬間にバランスを崩した身体は、本棚にぶつかり、重量の重いその木の枠は、ぐらっとよろけて、何冊もの本をその棚から放り出した。

「うわー、大変だ」

 一瞬の出来事に、舞い上がった埃が肺まで入ってきて、げほげほと咳をする。
 そして改めて、今の衝撃で放り出された、定められた場所に納まっていたはずの本たちを見て、額に手を当てる。
 しかし、そのまま立ち尽くしていても何の解決にもならない。今の音を聞いて誰かが駆けつける、何てことありえないのだから。
 仕方なしに床から1冊ずつ拾い上げて、幾冊かを抱えて本棚と向かい合い、片付けていく。
 その作業を何度か繰り返していく内に、明らかにそこかしこに散らばった本とは違うものを発見した。
 はっきりと明確にそのページを開くようにしおりが挟まっていたのだろう、その本を手に取り辺りを見回す。

「・・・・・・あ、あった」

 一枚のしおりは、他の本を少し除けた場所に静かに舞い落ちていた。
 ラミネート加工されたそのしおりの中に挟まっていたのは二股のオリーブの若葉。
 いつか一緒に行ったオリーブ園でやっていたカップル限定のサービス。
 二股のオリーブの葉は色あせることなく、そこに収まっている。打刻された印は、数年前のことを鮮やかに思い出させる。
 二股の葉・・・ちょうどハート型に見えるその葉を見つけてくれた君の笑顔が思い出される。
 ぐっと右手でこぶしを作って、想いを固くする。

「・・・これ、片付けてる時間は無い、か」
 
 未だ散乱したままの本たちに心の中で手を合わせ、しおりを大事に仕舞って駆け出す。
 まだ、間に合う。そう信じて。
 
 
 君の傍に居たいから。
 改めて自覚した自分の想いと共に―――
 
 
 
 今にも泣き出しそうだった昨日の君の声を思い出して。
 
 
 
 
 
=========================
 
 
お題:『若葉』『本棚』『間に合う』
お題提供:たんぽぽさん
 
 
 
久々に恋愛っぽいものを。
完全にオリジナルのSSを久しぶりにかきましたよ。
でもあまり乗らなかったのは何ででしょう。
期間が開きすぎたか。
この3つのワードを見たときにネタの神様光臨してたから
書くまでにこんなに時間がかかるなんて思わなかった。
ちなみにこの、二股のオリーブを加工してくれるのは
確か小豆島のオリーブ園だったと思います。
すんごい記憶があいまいですがローカルな番組だったはず。
カップル限定じゃなくて女性限定だったかな・・・?
 
 
 
 
 

コメント

nophoto
たんぽぽ
2008年5月28日22:37

お題で、書いてくれてありがとう。
涙があふれて・・・
まだ、涙が止まりません。
私・・・好きです。このストーリー。

小豆島のオリーブ園で
はぁとに見える葉を加工してくれるんですね。
ロマンチック・・。
あ、ごめんなさい。喜びすぎですね。私・・・・。

映像が浮かんできます。
出だしから、どきどきしながら
読ませていただきました。
話の展開も、文章も素晴らしいと思います。

k
稚維
2008年5月29日13:01

たんぽぽさん>
え、え、えぇえ?な、涙・・・・・・?
あ、あの、え、えっと(挙動不審)
と、とりあえず、ハンカチどうぞ・・・。

好きだといってくださってどうもありがとうございます。
リハビリの感じで書いたので、どうも拙いのですがι
今回は、性別も不明です。
恋愛っぽいものであって、恋愛ではないかもしれません。
友情、という形も在っていいと思います。
カップルじゃないんだけどなぁ・・・と、笑いながら。

オリーブ園は確か牛窓にもありましたよね。
でも多分小豆島の方です。たぶん。
駄文を読んでくださってありがとうございました。
k

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