散歩の途中、道端に紫色の花を見つけた。
 水仙の葉よりは大きく、菖蒲の葉よりは細い葉をつけたその花は、すぅっと他の花、自分でも知っているようなかなり有名な花、をみていた自分の瞳を惹きつけた。
 何と云う花なのだろう?
 首をコテンと左に傾げて、うーん、と唸る。
 ついこないだ開いた気がする植物図鑑の写真と目の前のそれを合致させることに必死だった。
 頭の中のページを捲れど捲れどその花の色は出てこない。似ていると思う花はあるのだけれど、それもこの色ではない。
 頭の中が飽和状態になって、ぐてんと頭を後ろに倒すと、ヘブンリー・ブルーの空に雲がモクモクと生まれている。

 しばらくその雲の流れを眺めていたが、ちょっと目の前がくらくらしてきたのに気づいて、慌てて頭を正常な位置に戻す。
 だが、慌てたせいで、急な動作だったため、余計に目の前がくらくらした。

 それが収まると、よし、と思い立ち、すっくと立ち上がった。
 その途端また目の前が真っ暗になり、世界が歪む。
 すんでの所で持ちこたえ、転倒には及ばなかったが、危ないところだった、とはふ、と息を吐く。

 偶の外出。偶のお散歩。この身体が疎ましい。
 ベッドの上で図鑑や本を見ているのも楽しいけれど、こうも体力がないのでは、実際に本物を見ることができるのは少ない。
 医師の許可が出て、1人で療養所の中にある緑溢れる場所にやっとこさ来れたというのに、こう頻繁に頭がくらくらするのはいただけない。
 
 とにかく、あの花の名前を早く部屋に帰って図鑑で調べよう。
 摘んで行ってしまうのは心苦しいから、その花の咲き誇った姿を目に焼き付けて。

 あの、薬品の匂いの充満した部屋に帰ろう。
 
 そしてまた、あのブドウ糖と気管支拡張剤とその他もろもろの詰まった液体を身体に流し込む管を差し込むの。
 
 
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
お題:『水浅葱色(ヘブンリー・ブルー)』『すっくと立つ』『露草』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
露草は、描写だけで名前が出てきてませんね。
しかしこれもまた取りとめもなく書きました。
 
 
 
 
 

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