「た〜まやー!」
「か〜ぎやー!」
 
 もうそんなことを云う人も少なくなったであろう言葉を隣の2人は花火が打ちあがるたびに繰り返し叫んでいる。
 会場から少し離れた川の土手。
 確かに会場近くの橋よりは人手が少ないが、ここも地元では知られている穴場スポットであるため
 何のイベントもないときのあの閑散とした様を思い起こせば、充分すぎるほどの人がいる。
 一尺玉、スターマイン、仕掛け花火・・・・・・
 様々な色を暗い空に描き出す。
 萱草色の大輪の花が咲き乱れたときには、周りから歓声が上がった。
 次々に咲いては消える儚い命の花たちは、今が盛り。
 ふと隣に目を移せば、なにやら論争が繰り広げられているのが見受けられた。
 次々に打ち上げられる花火の音で掻き消され、自分にその声は届かない。
 まぁ、いいか、と思って自分の視線を空に戻す。
 
 
 
「で、さっき何話してたの?」
「んー、あの色は何の金属かな、って」
「は?」
「高校のとき習っただろ、炎色反応」
 
 次の花火の準備をしているのであろう。
 花火の音が途切れたときに、先ほどのことを思い出して問いかける。
 そして返ってきたその言葉に、絶句した。
 
「何だっけ?えーとリヤカーなきK村・・・」
「そこまでだとリチウムが赤、ナトリウムが黄色カリウムが紫だよな」
「えっと、続きは動力借るとすとくれない馬力・・・だったか?」
「銅が緑、カルシウムが橙、ストロンチウムが紅、バリウムが緑・・・?」
「あれ、緑が2つになったな」
「確か緑と青緑とかに分類されてたよな。どっちがどっちだっけ?」
 
 嬉々として話を進める2人に、わなわなと肩を震わせ、拳を握った。
 
「お前ら・・・そんなこと話してたのか・・・?」
「あ? そうだよ、な?」
「あぁ」
 
 その否定するつもりもない言葉に、純粋に伝統文化を楽しんでいた自分の頭の中で
 ついにぷちんと何かが切れる音がした。
 
「日本の伝統文化を化学で分析するなーーーーーー!!!」
 
 その言葉を皮切りに怒り狂った自分を見て2人はきょとんとする。
 怒りが収まったのをみて、そして次の言葉を続けた。
 
「誤解すんなよ・・・昔の人はすげーよな、って話!」
「え?」
「だって俺らなんか学校でしか習わねー事、花火師はずっと昔から知ってるんだぜ?」
「あ」
「しかも日本の科学が発達するずっと前の話だ」
 
 その言葉に、自分もすとんと彼らが話していたことを理解した。
 2人はただ単純に自分の知識を確認していたわけではない。
 日本文化、夏の象徴の花火を作る人たちに対して敬意を表していたのだ。
 そう思うと、ふっと固く結んでいた口元が緩んだ。
 
 
 
 今年は雨も日照もバランスがいい。
 日本古来からの伝統である稲作も豊かな実りが期待できるだろう。
 日本文化に触れる・・・。
 稲作でさえ、昔ながらの農法と今の知識の合作でもっと美味しい米を作っている。
 
 科学と日本文化がうまく融合していることに気づかせてくれたこいつらは
 とてもとても優しい存在。
 
 
 幻想的な花火は終わり、そして未だ夢の中にいるような気持ちで家路に着く。
 休みが終わればまた忙しくなりそうだけど、今はもう少しこの余韻に浸っていよう・・・・・・
 
 
 
 
======================
 
ちなみに、花火を見て炎色反応のことを思い出すのは海梨さんです。
 
 
お題:『花火』『豊か』『萱草色』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
 
補習校の夏休みの科学レポートで中3のときは花火の仕組みを調べて発表しました。
そのとき炎色反応についても一通り調べましたが
改めてChemistryで習ったとき・・・
実際に金属を燃やして炎の色を見た時はすごく感動しました。
日本の花火師さんは昔からこのことを知っていたんだ、って思うと。
ちなみに作中で使った『リヤカー無き・・・』っていうのは
海梨さんが通った日本の高校の化学の先生が使っていた暗記法です。
普通はなんて憶えるんですかね。
 
個人的反省点は『豊か』の使い方がかなり無理やりであること。
普通は豊作、とか言いますよね・・・・・・
 
 
毎回楽しいお題をありがとうございます♪
 
 
 
 
 
 

コメント

nophoto
たんぽぽ
2008年8月7日0:21

「日本の伝統文化を化学で分析する」
とっても興味深い話の進み方ですね。
私は、化学が苦手なので
とっても尊敬してしまいます。

題もいいですね。
題名から、わくわくしました。

三人の会話もいいなぁ〜。

私も、余韻に浸っていよう〜っと。

豊かの使い方も
いいと思いました。

そうそう
日本の農業のやりかたは
素晴らしいんだよ
と教えてくれた方がいました。

k
稚維
2008年8月7日9:47

☆たんぽぽさん
題名とは裏腹にこんな化学の話になってしまって申し訳ないです。
(わくわく感が無駄になってはいまいかとどきどきしています)
『花火』というお題を見たときにすぐに頭に炎色反応が出てきてしまい・・・
私ホント化学好きだったんだなぁ、と改めて確認してしまいました。
尊敬だなんて・・・もったいなすぎる言葉です!
私は化学を向こうで習ったので、向こうの文章は論理的なおかげだと思います。
理解するのは楽しいし、それをイメージするのはもっと楽しい。
それに教材も豊富で、イメージとして捉えるのが容易でしたし。
ラボ(実験)の回数も多かったですし。
あぁ、Physics(物理)もやりたかったな、英語で。
(日本語の参考書は理解度が自分の満足する所まで達しなくて・・・)

日本の農業はすばらしいですよね。
日本人は発明こそ苦手かもしれませんが
元々在るものを改良してより良くしていくのが得意なんだと思います。
車の技術とか、他にもたっくさん。

コメントありがとうございます♪
k

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