「わぁ!」

 森近くの川沿いを歩いていると、暖色の花が今が盛り、とばかりに咲き乱れていた。
 それは微妙な色合いで、一重の花を花びらを反らせるように開いている。
 
「きれいな色だね! オレンジ? 黄色? 橙とも違うし、蜜柑でも檸檬でもないし・・・」
「ホンにおんしは物を知らんの」
 
 はしゃぐ少年を木陰で見ていた少女は、はふぅと息を吐き出すと、あきれた声で云った。
 
「え? じゃぁ始祖様はご存知なんですか??」
「萱草じゃ」
「カンゾウ・・・?」
「黄色味がかった橙色のことじゃ。元はノカンゾウという花の色で・・・・」
 
 そこで少女は言葉を切った。ふぅとため息をついている彼女は、面倒だといわんばかりに
 少年からふぃと目をそらす。
 
「さすが始祖様! 知識が豊富ですね。僕も色々覚えたいなぁ」
「だてに何百年も生きてはおらんわ。・・・おんしが知らなさ過ぎるだけじゃ。
 その内放って置いてもおんしもわらわのように知識や経験だけは増えていくのじゃ。
 そう焦る必要もあるまい、しかし・・・」

 少女が少し躊躇うように言葉尻を濁す。
 それを不思議に思って、少年はきょとんと首を傾げた。
 
「どうかしたんですか?」
「・・・明るい色合いとは裏腹に、それは昔から凶色としても知られておる。
 何か悪いことの予兆でなければ良いのじゃが・・・」
 
 その言葉に少年は驚くも、少女の表情が真剣で尚且つその顔色が優れないことに気づいて
 彼女が本気で心配していることを理解した。
 
「そうなんですか・・・。でも、僕はこの花好きです。花火みたいで。
 きっと大丈夫ですよ。何かあっても僕がいます」
 
 その少年の言葉に少女はわずかに目を見開いた。

「懐も大分豊かですし、今日中には村に着けそうですし。
 僕が始祖様をお守りしますよ。何があっても」
 
 本当に嬉しそうに笑うその表情に、少女は小さくため息をついて、ふぃと顔をそらす。
 
「生意気を言う出ないぞ小僧。
 おんしにそのような事を云われる謂れなどないわ。
 それにおんしなんぞに守られるほど弱くはないぞえ」
 
 伊達にこの歳まで生きてなどおらんわ、と殊更強めの口調で少女の唇で紡がれた言葉に、
 少年はくすりと彼女に気づかれないように笑った。
 この時空の時の流れから外れてしまった少女は、見た目とは裏腹に、想像もつかないほどの長い間の時を生きてきたのだ。
 そして最近ひょんなことからその時の流れから外れてしまった少年と一緒に旅をしている。
 
 
 永遠に近いその途方もない時間を1人で生きねばならないと思うと気が滅入るが
 自分には他にも仲間がいる、そう思うと幾分楽になる。こうして傍にいてくれる人がいる。
 
 
 だから前へ進もうと思うんだ。
 
 
 
=====================
お題:『花火』『豊か』『萱草色』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
今回はお題を全て言葉の中で使って見ました。
 
 
 
懐が豊かって・・・普通懐は暖かいものなんじゃ・・・?(没)
 
 
 

コメント

nophoto
たんぽぽ
2008年8月7日0:32

お題を使って、ふたつも書いてくださって
ありがとうございます。

映像が浮かんできます。
不思議なふたりの境遇ですが
ふたりなら、前に進めますね。

少年のまっすぐなところもいいな。

お題を言葉の中で使うのって
大変だったでしょう。

”懐が豊か”も、違和感がない気がします。

k
稚維
2008年8月7日9:36

ぃぇぃぇ、こちらこそ、毎回お題ありがとうございます。
話を考えるのが好きなので楽しませてもらってます♪

2人が見たのが何の花か、というのは、正直決めてないんですが
(その世界だけの花、とか・・・)
『萱草色』の想像を膨らませるに当たって、色見本で見てみたり
その元のなったノカンゾウと同じ種類のヤブカンゾウの画像をネットで調べたりしました。
萱草ってのは心を奪われる、って意味からつけられたみたいですね。
どれだけ綺麗なんだ・・・
そのヤブカンゾウの画像が花火が開いたようだったので、こんな話になりました。
(少年の言葉は私そのままです)

まっすぐな少年、を書きたくなるのは
この時の流れに取り残されたような状態といい
かなり『幻水』の影響を受けているようです。
私ホント幻水大好きですからねぇ。

私は地の文でお題の言葉を使う、を目標にしてたので
この話は実を云うと不本意なんです。
でも、『長寿の人から色の名前を教えてもらう』って設定が
先に頭に浮かんでしまったものですから
お相手はやっぱりまだ未熟な少年でなければ、と思ったのですよ。
そもそもこの色名をピタリと言い当てられる人、なかなかいないと思うので。

会話文にお題を入れ込むのはそんなに大変なことじゃないので大丈夫でっす♪
懐の話も違和感ないって云って貰えてよかったぁ・・・
私日本語怪しいので、そう云って貰えて安心ですv
コメントありがとうございましたvv

nophoto
たんぽぽ
2008年8月9日9:08

いろいろ調べて書いてくださって、ありがとう。
心を奪われるという意味もあるんですね。
なるほど・・・。
うっとりする色合いですものね。

「忘れ草」という別名もあるらしいです。
ノカンゾウの花を見ていると、悲しいことや嫌なことを忘れてしまうところから、つけられたそうです。

k
稚維
2008年8月10日9:46

☆たんぽぽさん
心を奪われて時を忘れるくらい、って感じらしいですね。
素敵な花ですvv
k

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