懐かしい場所に立つと広がる
2008年11月5日 ネタ帳 コメント (2)ざく、ざくっと分厚い落ち葉を踏みしめ、林を抜けた先には
そこは穴場スポットと自分では想ってる場所がある。
もちろん、その落ち葉が敷き積もった公園からでも海は見えるのだけれど
この林を抜けた場所から見る景色は絶景なのだ。
何といって表現して良いのか判らないほど、澄んだ空気と
どこか懐かしささえ憶える潮の香り。
そしてその場所に行くと胸が詰まって泣きそうになる自分が妙におかしかった。
ほとんどの落葉樹は色を変え、葉を落としている。
イチョウもそれに倣って、地面には鮮やかな黄色が降り積もる。
そのイチョウとよく似た、レモンイエローの羽をもった季節はずれの蝶々が
誘うように、お気に入りの場所から自分を遠ざける。
ふと目で追っているうちにふわふわと飛んでいるその蝶は
視界から突然消えてしまった。
唖然として辺りを見渡すが、それを見つけることはできなかった。
どこか心に寂しさを憶えながらも、先ほどの場所へと戻ろうと踵を返す。
だがしかし、進みだそうとした途端に、コートの端をつかまれていることに気づいた。
視線を動かして後ろを見るが、誰もいない。
その視線を、ノロマなスピードで下へと移すと
こどもが、手袋をはめた子どもが自分のコートをしっかりと握っていた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
そのこどもが問う。
どうした、と訊きたいのはこちらだというのに。こどもは続ける。
「どうしてそんなに哀しそうな表情なの?」
その言葉を云われて、自分自身どんな表情なのか気になった。
「お兄ちゃんは、哀しそうに見えるかい?」
「うん」
こどもは臆することなく答えた。
そして、今の自分の状況を思い起こして、ふっとため息をついた。
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ、なんともないから」
「ホントに?」
「うん、ホントだよ」
慣れているから――――――
その言葉は紡がずににこっと笑う。
時の流れに置いていかれるのは、慣れている。
同じ時を刻んでいたはずの人間がいつの間にか朽ち果てていくのにも。
そう、もう何百年と同じ時を刻んでいる自分にとっては
一人の人間の死など、生きているものなのだから、死が訪れるのは当たり前で
そう、割り切っていたはずなのに―――――――
「―――小僧」
「・・・始祖様?」
「魘されておったようじゃが、悪夢か」
「ぃぇ・・・そういうわけでは・・・・・・」
悪夢なのは、こちらの現実の方かもしれない、と、想ってしまう。
現実に自分の身体は老いることを知らない。
不老不死を喉から手が出るほど欲しがっている権力者も居ると聴くが、そんなにいいものではないと想う。
みんな、みんな・・・大切に想った分だけ、別れが寂しい。
人と死別する回数を重ねても重ねても、慣れは来ない。
いっそのこと人を遠ざけてしまえば、バリアを張って、内側に入れなければ
こんなにも哀しい想いをすることは無いのかもしれない・・・・・・
「ほれ」
差し出されたコップには、熱いお茶が入っていた。
旅暮らしでそれを口にする機会は少ない自分たちの、ささやかなる贅沢だ。
それを今差し出してくる少女を見やれば、彼女は薪をかき回している。
白い肌は炎にオレンジ色に染まり、白い髪は漆黒の闇に馴染んでいる。
少女の表情は、無表情というがふさわしいものだったが、それでも――――――
一口中身を口に含めばその温もりが広がり、身体が温まる。
そして同時に心にも、むずがゆいような、温かさが広まる。
「始祖様」
「割り切れと前にも云うたな?」
「はい」
「じゃがまぁよいわ。おんしはおんしでわらわとは違う人間じゃからの」
「ありがとうございます。始祖様」
表情を変えずに淡々と話していた少女に向かって思い切り笑顔を向ける。
それを見た途端呆気に取られたような表情をしていたが、すぐに顔を背けた。
少し恥ずかしそうにしていたが、わざとらしい咳払いのあとは、いつもの少女に戻っていた。
自分は自分――――――
現実は悪夢よりも哀しいかもしれないけれど
それでも、やっぱり、僕は――――
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お題:『レモンイエロー』『海の見える公園』『温まる』
お題提供:たんぽぽ様
書き始めは始祖様シリーズじゃなくて
普通の現代ものを書いていたのですが
なんか、また始祖様シリーズになってます。
お題の『海の見える公園』がそのまま舞台設定だったので
言葉として入れませんでした・・・・・
と云うか、入らなかったのが事実です。
前半が夢かどうかという点についてはご想像にお任せしますv
コメント
文字を追うごとに、色彩と・・・映像が
ぱあ~っと広がっていく様
とても、楽しいです。
これって、映像を見ているのとは、2倍以上わくわくしますね。
「海の見える公園」を言葉ではなく、文章であらわしてくれて
ありがとう~!!
レモンイエローの蝶もいいですね。
ほんと、イチョウが、はらりと舞い落ちる様は
紋黄蝶のようですよね。
それから
取り残された寂しさ
別れの悲しさの表現が
よく出ていると思います。
これからも
読ませてくださいね。
うわぁ、色彩、見えてきますか??
ありがとうございます。
自分の文章力に自身がないので、そう云っていただけると嬉しいです。
海の見える公園は、環境設定で!(自爆)
お題なので、無理にそのまんまの言葉を使わなくても
良いのかなぁ~?と、勝手に字の分に組み込ませていただきました。
以前も花とか、描写だけでしたしね。
それでは感想ありがとうございました。
またお題待ってますv