突発走り書き

2011年3月25日 ネタ帳
 
 
 
 
 ゆらりゆらりと揺れる人影に、息を呑む。
 一番きてほしくないものが来てしまった、そんな感じがする。

「やぁ」

 そう云って、影の輪郭の口が弓なりに笑む。

「そろそろ覚悟は出来たかい?」

 ふるふると首を振るものの、声は声にならない。
 がくがくと足が震える。
 その様を楽しむかのように、影の瞳が嬉しそうに笑む。

「そうは云っても、この状況だ」

 君も助かりたいだろう?
 段々とはっきりとしていく、影の正体は---

「わたしは、『わたし』に負けない」

 震える声でようやく紡ぎだした言葉に、力を貰う。
 言霊。
 目には見えないけれど、確かに存在する。

「わたしは、『わたし』に屈しない」

 声に力が戻ってくる。
 先程よりも強く紡がれた言の葉に、影は苦しげに眉をひそめた。

「きみは、永遠にここを彷徨うつもりかい?」

 先刻の強気な言葉が嘘のように弱くなった語調に、こちらが強気で答える。

「大丈夫。光は見失ってない」

 そして笑う。

「あなたもわたしの一部。だから置いていったりなんかしないよ」

 言外に、不安にならないで、とそう願いを込めて。
 その瞬間、影が自分自身を覆ったけれど、それは悪くはない感覚だった。
 きっと、これからも惑わされたりするだろうけれど。
 怖くなって逃げ出したくなるかもしれないけれど。

 大丈夫。まだ光は見失っていない。

 そう思って、手足に力を込める。
 ヘドロのように足を取っていた足場が固い。
 少し意識を集中して、そして、声を上げる。

「大丈夫。まだ大丈夫、壊れたりなんかしない」

 まだ、君の幸せを見てないから。
 そう強く願えば、闇は霧散する。
 今置かれていた状況を、ようやく思い出す。

「人の心は弱いけど、人の心の繋がりは信じているだけ強くなる」

 根拠はないけど、多分そういうものだと思いたい。

「わたしにこんな幻覚はもう通用しないんだからっ」

 強く心を持てと云われたのは、いつだっただろう。
 もう遥か昔に過ぎ去った人たちを想い、瞳を閉じる。
 すぅっと深く呼吸して、そして立ち上がる。

「それこそ、無駄な足掻きというものだよ」

 たとえ、その言葉が真実だとしても。

「君の願いは何? ボクがそれを叶えてあげる」

 たとえ、その言葉に嘘偽りが無いのだとしても。

「そのあとに支払う代償がこの世界なら、何も願わない」

 静かに告げると、訳がわからない、というように、二本足で立った小動物は肩を竦めた。

「ボクらはこの世界を消したりしないさ。結果この星がなくなるだけ」
「一緒だわ。だからわたしは何も願わない。浄化されなさい。生きとし生けるもののために」
「ボクが死んだって何も変わらない。人はまた新しいボクを作り出す」

 小動物は笑う。そして確信めいた予言をする。

「たとえボクを殺しても、人間の欲がまた新しいボクの仲間を作り出す。
 君のやっていることは、全くもって無意味なんだよ」

 それが世の常だからね、そう云って小動物は群れを成す。
 どれだけの人が、この生物の生血になったのだろう。
 それを考えると、この生命すら、護ってやりたくなるが。

「わたしの仲間、みんなを傷つけたあなたは許さない」

 走馬灯のように駆け抜けていく仲間たち。
 最後をわたしに託してくれた大切な、大好きな人たち。
 希望の光を、わたしに見ていてくれるなら---

「わたしは、負けないから」

 自己犠牲が尊いとは教えられなかった。
 自己犠牲ではなく、そこに自分の満足を見出せるなら、それでよかった。
 人間の欲の塊、それを目の当たりにするのはつらいけれど。

 ふっと力を入れていた全身から、力が抜ける。

『リラックス、リラックス』
『最初から力みすぎだよ』
『大丈夫。僕らも居るよ』
『問題ない。身体は遠いが、想いは共に』
『交信可能。一緒に居るよ』
『やっと私の存在に気づいてくれた?』
『まったく、世話が焼ける人ですね』
『一緒にその地に立てなくてすまない。だが共に』

 たくさんの声が聴こえる。幻聴ではなく、本当に。
 わたしの頭はどうかしちゃったのか。

『なんだそれ、俺らがせっかく力送ってんのによ』

 信じられないって?
 そう云って、呆れたような声を出す少年に、思わず笑みが零れる。

 そうだね、心で繋がってる。

 目に見えないものだけれど、身体のどの臓器を探しても出てこないけれど。
 瞳を閉じれば、惑星の声さえ聴こえてきそうだ。
 育んで、試練を与え、進化させた生命の母体。
 人間の欲に、他の生物までも巻き込んじゃいけない。

「みんながいる。傍にいてくれる。心強いな、ホント」

 先刻まで闇の中に居た。
 あれは孤独が見せた幻。
 寂しさに負けそうになったが、今は嬉しさで涙が出そうになる。

「いくよ、みんな!」
『『『おう!!!』』』

 群れを成した小動物を浄化するために、力を練り上げていく。
 わたしに、神子に与えられた力。
 それは、全ての生きとし生けるものを浄化する力。
 悲しみも。柵も。人間の欲も。

 人間が勝手に聖なるものと位置づけている力だけれど、少しだけでも今回の旅で、役に立てると実感した。
 だから、自信を持とう。
 何で自分なんかに、と今でも想う。だけど、今はこの力が少しだけ誇らしい。

 今、みんなの、気持ちをひとつに----

 
 
 
 
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 
突発走り書き。なんか、最終決戦ぽい。
RPG的な発想だな。いきなり着地点か。
しかし、最終戦は主人公(?)1人だけになってるようだが。
これは大丈夫じゃなくないか?
 
 
 
 
 
 

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k

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