コトリ、と異なる材質が接触する音がして、テーブルに影が落ちる。
静かに鳴り出したオルゴールの音に、嗚咽が混ざる。
「・・・・・っ」
声にならない声が、オルゴールの音だけが響く空間に重なる。
泣いてはならない、そう思った。
自分が泣いてはならない、そう思ってきた。
こんなにも離れていて、あの揺れだって経験していないのに。
温かい陽だまりの中にいて、弾力のあるベッドで横になれるのに。
この時期は眠れない。
ずっと頭が重たくて、瞼が張り付いたように、瞳を閉じさせてくれなくて。
ただ呆然と虚無の世界を見つめる。
何年経っても、忘れられない。
街が賑わいを取り戻しても、人々が元の生活を取り戻しても、忘れられない。
爪痕が、綺麗に隠されても。
繰り返される映像が、瞼の裏に浮かぶから。
心無い言葉が、耳に木霊するから。
一度失った生活は、もう、元の形には戻らない。
そこからは、また新しい生活なのに。
それを経験していない自分が、なぜ泣く。
何も失っていない自分が、なぜ泣く。
本当の意味で怖い思いをした人々が、前に進んでいるというのに。
どうして、自分の時計は、あのときのまま、止まっているのだろう。
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突発短文。ネタ帳にもなりやしない。
トラウマ的ものを抱えている人、ってことで書こうと思ったら
いまだと『揺れ』を真っ先に思い浮かべてしまって。
別に今回の震災をイメージして書いたわけではないんですが。
寧ろ感覚的にいうと阪神のときのイメージで作った感じ。
逆に船の難破とかもイメージしたりしたんですが。(キノの旅の船の国みたいな)
不謹慎なネタかもしれません。
トラウマが残りませんように。一日も早い「日常」が戻ることを祈ってます。
コメント
現地の人だけじゃなく、ニュースを見た人も
心配のあまり、こころを痛めて
頑丈そうに見える男の人まで
泣いてしまったこと・・・聞いています。
とてもよく心情を書かれていると思います。
こどもたちはもちろん
大人も
みなさんのこころが
穏やかになられることを
私も祈っています。
こんな本当に創作ともいえない代物にコメントありがとうございます。
天災に見舞われても力強く生きている人を描こうとしても
私には負の力が大きすぎて、それを跳ね除けることが出来なくて
結局、普通に生活していても、時々思い出してしまう、という描写になってしまいました。
今回の震災については、まだ余震が続くとの話ですし
過去形にはなっていないので、現在進行形で大変な状況だと思います。
私も、被災された皆さんが
そして今でも作業に追われている皆さんが
これから現地に復興に向かわれる皆さんが
一日でも早く、心穏やかに過ごせるようになることを願ってやみません。