「どうした?」
難しい表情をする私に、動きを止めて、顔を覗き込んでくる。
こちらを窺う瞳が僅かに揺れているのに気づいた。
「な、なんでもないです!」
こちらを気遣ってくれるのは嬉しいけれど、気づけばこの距離があまりにも近くて、心臓がもたない。
自分でも驚くくらいおかしな声が、自分の声帯から出ているのがわかって、顔が熱くなる。
それでも、フリックさんは、こちらを見ることをやめてくれなくて。
「ホントにどうした?」
鼻が触れ合うほど近くで、吐息が唇にかかるほど近くで、そう問いかけるものだから。
私はとうとう観念して、ギブアップ宣言をする。
「いや、もう、ホントにだめです」
「ん?」
「すみません、無理しました。ごめんなさい」
そう告げれば、よく云えました、とばかりに頭をぽんっと撫でられる。
現在、熱に浮かされつつ、それでも食事をとっている最中で。
それでも、宿のひとに、私の胃腸の弱さなんてわからないのは当然のことで。
「完食するのはえらいが、そのあと腹痛に耐え切れずに吐くんじゃ、体力削るだろうに」
すごく呆れたように吐き出されるため息が痛い。
宿のひとが好意で作ってくれたものを先刻吐いてしまったのだ。
それで、フリックさんが厨房を借りて、おかゆを作ってきてくれた。
「それに、俺にまで隠すな」
「すみません・・・・・・」
心配してくれたのがわかっているから、二の句が継げない。
しょぼん、と肩を落とす私の隣に座って、フリックさんはまた、ぽんぽんと背中を撫でる。
そこまで落ち込む必要はないと、心配していただけだと云ってくれる。
「お前はもっと俺を頼ればいい」
その言葉に、はっと目を見開く。
『お前は』って云うのは、私とオデッサさんを比べているのだろうか。
そう考えてしまって、匙が止まる。
その様子を変に思ったのか、フリックさんが、どうかしたのかと訊いてくるけれど、それは訊けない。
「うーん」
「まだだるいか?」
その言葉には、軽く首を振って、昨日の礼を云う。
なんだかふたりで旅をするようになって、フリックさんは私の扱いがうまくなったような気がする。
「フリックさんは風邪ひきませんねー」
「俺が体調崩したら誰がお前の面倒見るんだ」
苦笑いでそう答えてくれたのは、きちんと優しさが乗っていて。
私は思わず満面の笑みを浮かべた。
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フリックさんとは後々こういうような関係になる予定のヒロインを作ってる段階。
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