訪れる冬の気配に、僕は足を止めた。
目の前を通り過ぎた葉っぱにつられて足元に視線を落とせば、一面落ち葉の絨毯。
踏み知ればざくざくと音が鳴るのに、どうして今まで気づかなかったんだろう。
悪い思考を頭から追いやって、空を見上げる。
息が白く霞むのに、ポケットに突っ込んだ掌を口元まで持ってきて、はあっと息を吐く。
その間も、視線は青い空。
澄み切った青が、高い位置に存在するオゾンの色だとは知っている。
その青が人間にとって毒だということも知っている。
長時間いたら毒だけど、ホントは少しそこに存在したいと思っている。
病院なんかでオゾンを使って殺菌してるから、きっと、ちょっといたくらいでは死なない。
長期間、大量に浴び続ければ人間にとって毒になるものは、自然界に山ほどあるんだ。
塩だって砂糖だって、過剰摂取は毒。
水でさえ毒。
でも、人間は、それらを摂らないと存在できない生き物だ。
降り注ぐ太陽の光も、浴び過ぎれば皮膚癌になる。
でも、僕ら人間は、太陽の光でビタミンを作りだしているし、体調を整える。
自然界に存在する元素はたくさん。
そして、その中には放射性元素もある。
でもね、普通に暮らしている限り、特に害はなかったんだよ。
自然界で存在している分には、問題ない。
それに、同じ元素でも、放射性じゃないものもある。
中性子の数が違うと、その元素の性質が変わることを知らない人が多すぎる。
酸素といったって、オゾンとして存在すれば、また形が違うように。
燐と云ったって、黄燐、赤燐で性質が違うように。
確かに危険は大きいけれど、それですべてが怖い、なんてのはおかしいよね。
ちゃんと知らないから、怖いんだよ。
きっと、きっと、きっと。
みんな怖いんだよね。知らないことに恐怖を憶えてる。
だから、自分の得体のしれないものを無暗に怖がって、理解できないものを否定して。
目が見えないひとの苦しみを想像できない。
耳が聞こえない人の苦しみを想像できない。
心が痛い人の苦しみを想像できない。
きっと、きっと、きっと。
きちんと知ったらそのひとに優しくなれるはずなのに。
あなたはとても優しいひとのはずなのに。
『知らない』ということが、あなたに恐怖を駆り立てて、人間として否定する。
同じ種だと思わなければ、動物やウィルスや、果ては自然災害とでも思えば、それが存在することを認められる。
そんなの、寂しい。
人間はちっぽけで弱くて、そして何より怖がりだ。
葉を落とす木々のように、それでもそれが生業だからと自分自身を受け入れられない。
落葉樹は常緑樹のことを羨んだりしないし、自分のことを卑下したりしない。
自分は自分。違うから存在している。
この道の先のエバーグリーンの葉を見ても、きっと誰も怒らない。
なんでお前は冬なのに葉を落とさないんだ、なんていわない。
なんで紅葉しないんだ、ともいわない。
だって、それが自然で、それがあるべき姿だから。
ふと、鼻腔をくすぐる、ふんわりと甘い香り。
それにつられて視線を動かせば、そこには君がいて。
ねぇ、僕は君に何ができる?
優しく微笑む君の腕には、愛すべき、愛しい存在も一緒にいて。
その笑顔を見ると思うんだ。
大丈夫、きっとうまくいく。
根拠はない。だけど、きっとうまくいく気がする。
きっと、未来の君のために、うまくいかなきゃ、困るから。
お題:「根拠はない、だけど、きっとうまくいく気がする」「エバーグリーン」「ふんわり」
お題提供:たんぽぽ様
お題をもう一度使わせていただきました。
最近、一人称で書く機会が多くてですね。
ここでも一人称を使ってしまいました。
別に海梨さんは原発を擁護するわけではないです。
ただ、自然に存在する元素まで怖いなんて言うな、と思ってるんです。
まぁ、知らないことはとても怖いですからね。
でも、無知のままに『怖い怖い』ということなら、幼児にでもできます。
学ぶ術を持っているなら、もっと、自分が納得できるまで知るべきだと思うんです。
確かに、怖い部分はあるけれど、全てを否定するのはよくない。
そういう考え方、好きじゃないです。
病気に理解がないひとがいう、心無い言葉ほど、呆れるものはないし
どうして、想像力があるはずなのに、痛みによりそうことができるはずなのに
能力的に可能なのに、それをしないんだろう、と。
勿論、痛みを分け合うとかいって、無暗に放射ガレキを拡散させるのはどうかと思います。
未来は、きっと明るいと信じて。
欠けているところを、補えるひとがたくさんいて
そして、みんなが笑って過ごせますように。
コメント
自然の描写の中に、さりげなく思いを書かれた文章、
とてもまとまっていますね。
私も、今日、公園の中を歩いて、落ち葉の絨毯の音を楽しみました。
あわわわ、早速コメントありがとうございますっ
結構自分勝手なものを書いてしまったのですが、感想いただけてありがたいです。
落ち葉の音、好きなんですよ