「ごめ・・・・・・」
 
 
 そういって日野は制止をきかずに、走り去っていく。
 酷いこと言った、そんな風に思って居た堪れなかったんだろう。
 まぁ、的確な発言で、多少は堪えたけど、俺、そんなに軟じゃねえっての。
 
 
「あー、いっちゃったね」
 
 
 いまのいままで話を聴いていたのか、曲がり角から先輩が出てくる。
 なんだよ、全部見てたんすか。
 そうあからさまにため息をつけば、彼女は苦笑いして。
 
 
「ごめんごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだけど、タイミング的に出られなくて」


 あはは、と乾いた笑い声をわざとらしく上げる先輩に、別にいいすよ、と告げれば、申し訳なさそうな表情をする。
 このひと、ホント表情がくるくる変わる。
 
 
「で、なんか用ですか?」
「うーん、どっちかっていうと日野ちゃんに用があったんだけどねえ」
「日野に?」
 
 
 でも、いま追いかけてったらダメだよね。
 そう寂しそうにつぶやく。
 
 
「あぁ、練習ですか?」
「うん、今日聴く約束してたんだけどね、うーん・・・・」
「?」
「急な用事で、聴けなくなっちゃったから」


 すごく寂しそうな瞳で、そう言葉を吐き出す。
 きっと約束を守れないことは不本意なんだろう、先輩はそういう人だから。
 眉を八の字にして髪の毛を耳にかける。
 癖、なんだろうな、話を変えたいときの。
 
 
「そうですか」
「うん、あ、土浦君は、大丈夫?」
「俺?」
 
 
 なんで俺なんだ、と問いかければ、彼女は笑う。
 
 
「だって、さっきの言葉は痛かったんじゃない?」
 

 さっき、と云われて、あぁ、そうだった、と思いだす。
 確かに、あれは堪えたけど、云われても仕方ないことだしな。
 
 
「別に、事実だから仕方ないですよ」
「そう? 図星指されたら私は痛いけど」
「まぁ、別にあいつに云われても、ただの八つ当たりだってわかってますから」
「ふふ。仲いいよね」
 
 そういって笑う様子は、先ほどとは違う。
 言葉にしてしまえば『笑う』という同じ動作なのに、雰囲気が違う。
 苦笑するのとも、馬鹿笑いするのとも、全然違う。
 やっぱりどこか、困ったようにゆったりと笑う。
 なんというか、ホントに、・・・・・・・綺麗なんだ。
 
 
「先輩こそ」
「ん?」
「金やんと仲いいじゃないですか」
「え、ええ??」
 
 
 半ば強引に、話題を振れば、わたわたと慌てている様が、余計に可愛らしくて。
 うん、あいつと先輩の共通点。
 打てば響く。


「だってホントのことでしょーよ」
「そ、そうかもしれないけど、改めて言われることでもないというか」
 
 
 ホントに恥ずかしそうに耳まで真っ赤に染め上げるものだから。
 反応が楽しくて、でも、このひとに手は伸ばせないと、頭に持っていきそうになった手を引っ込める。
 先輩は怒らないだろうけど、バレタときの金やんが怖い。
 あのひと、大切なものは作らないとかいっておきながら、結局大切だってことを周りにバレバレだから。
 まぁ、金やんに会いに来るだけで、周りに害を与えず、なおかつ生徒にも人気が高いこのひとを、学園側も立ち入り禁止にできないのもあるだろうけれど、でも、名物とはいえど、雇われてない人間がこうも校内をぐるぐるしてていいのかね。
 卒業生ではあるから、無関係ともいえないけど。
 
 
「ごめ、授業始まっちゃうね。午後も頑張って」
「はは、先輩も」
「私が何をがんばるのよー」


 そういって笑う彼女のことを残して教室に戻る。
 やっぱり、日野のことが好きだ。
 先輩と一緒にいても、和むだけで、どきどきしない。
 安心感があって、でも、目が離せなくて。
 あのひとはきっと、金やんを探せばいつでも隣にいるだろう。
 でも、日野は、俺が目を離したら、どこにいくかわからないんだ。
 だから、俺が――――――
 
 

 
 
 
 捕まえていなきゃいかないんだ。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
============================
 
 
 
 
なんか、微妙なものを書きましたよ。
でも、つっちーって、切ないよね。
むしろつっきーより切ないよね。
最終巻読み直してそう思ったんだもんーーっ
 
 

 
にしても、金やんの存在感が半端ない。
仕方ないじゃないか、好きなんだから←
 
 
 
 

 
 
 

 
 
 

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