「ねぇねぇ、見てー!」

 あの香りを嗅いだのはいつだったか。
 遠い記憶を呼び覚ます、鮮やかな黄色。
 ゆで卵の黄身で作られたソレは、確かに記憶の中の植物にそっくりだった。

「懐かしいね」

 自分たちが最初に出会った場所にもミモザが咲いていた。
 正確には、ミモザではなく、フサアカシアらしい。
 その証拠に、葉に触れてもお辞儀をしなかった。
 葉の形状が似ているソレをどこの誰が間違ったのか、それは知らないが、少なくともミモザだと認識していた。
 周りも似たようなものだから、植物学者以外は、そんなにこだわって植物を呼ぶこともないのだろう。
 別れた女性は、真の強い、まっすぐなひとだった。
 それでも薔薇のような棘はなく、曼珠沙華が一番彼女らしかったかもしれない。

 ミモザのイメージは、目の前にいる彼女だろうか。

 ふんわり、優しく、香り高く。
 それでも触れればふにゃふにゃと身を縮ます、オジギソウのような。

 笑顔の優しい、それでも、どこか頼りない―――

 出会って、離れて、再会して。
 どれだけの時を共に過ごしたか。
 もう、思い出すのも億劫になるほどの時間を共有し、そして結ばれた約束。
 彼女の笑顔のためにと絡められた指は、未だに解かれることはなく。

「あぁ、食べるのがもったいない」

 自然と口角が上がってしまう。
 長い時間一緒にいても、気づかないことはたくさんある。
 それでも、考えていることは伝わってしまうこともある。
 はたして、いまのは彼女に伝わっただろうか。


 愛しくて、愛しくて
 その花の匂いをかぎたい

 愛しくて、愛しくて
 その花の葉に触れたい

 愛しくて、愛しくて
 その花の名を呼びたい

 愛しくて、愛しくて
 その花の蜜を吸いたい

 


 卵の黄身のサラダは、食べてしまえば目の前から消えてしまう。
 そんな当たり前のことを考えてしまうくらいには邪な生き物。
 だから、大事に、大切にしたいと思う。

 また一緒にミモザを見に行けるように。
 大事にしていきたい。




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お題:「ミモザ」「ふにゃふにゃ」「結ぶ」
お題提供:たんぽぽ様

久々にシリーズではなく短編。
なのに、久々なのに少しR指定ですみません。
ぼかした上に白文字なので許してください。
なんでだろう、何年経っても、大好きで触れていたい。
そんな気持ちを持ち続けられる関係って素敵だな、って思ったら
そんな表現になりました。
うん、無色透明に近い感じですが、一応個人的に頑張った・・・!
ふんわかプラトニックも大好きですが、らぶらぶも大好きです。
ほんのり切ないのも大好きですが、らぶらぶも大好きです。

たんぽぽさん、お題ありがとうございましたー





コメント

nophoto
たんぽぽ
2013年3月19日22:49

わぁ~!
お題で、書いてくれたんですね!

とっても書きにくいお題でしたのに
こんなに自然な物語に。

ミモザと卵の黄身のふわふわ・・・
似てますね~!

私も、プラトニックも、らぶらぶも大好きです。
がんばってくれて、ありがとうございました。

k
2013年3月31日21:54

たんぽぽさん>
読んでくださってありがとうございますー
ミモザサラダ、というのがあって、画像検索すると出てきます^^
一番最初に【ミモザ】という言葉を知ったのが
実は植物ではなく、サラダの方でした・・・

いつも楽しんで書かせて頂いてますv
また、お題くださいねー!
k

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