「地平線」「ぱぴぷぺぽ」「つないだ手」
2014年8月25日 ネタ帳 コメント (2)朝陽が縁取っていく稜線を眺めながら青年は息を吐き出した。
ピンとした、朝特有の空気をゆっくりと胸いっぱいに吸い込んで、肺を満たしたあと、またゆっくりと吐き出された空気は、体温で暖かくなり、体内の湿度を帯びて白く見えた。
自分たち以外は、存在しない世界を満喫する。
特にメジャーな山ではないものの、それなりの高さがある。こんな時間に登ってくる人間はいない。
動物たちもまだ活動を開始しておらず、虫たちも静かなものだ。
ここにある空間が、普段暮らしている場所から隔絶されているように感じて、少し充たされた気分になる。
ふたりしか存在しない世界。少し憧れる。
山頂の大きなひんやりとした岩の上。隣には大切なひとがいて。
繋がれた手から、互いの体温を移し合って、それで温まる。
「キレーだな」
「ふふ、そうだね」
そういって笑う表情が、段々と朝陽に照らされていく。
綺麗だな、可愛いな、といつも思っているけれど、いつもと違う表情にドキリとした。
鼓動が跳ねたのは、恐らく気のせいではないが、繋いだ手から相手に伝わっていないか、少し不安になった。
今更隠すことはないのかもしれないが、それでも少し恥ずかしい。
パッと青年は見つめていた相手の顔から視線を逸らす。恥ずかしさから、体温が上昇するのを感じた。
「いつかさ」
この国は山と海ばかりで、地平線を拝めることはまずない。
海の近くで育った青年たちは、海上へ沈む夕陽をよく一緒に見て育った。
朝陽はいつのまにか昇ってしまっていることが多かったので、一緒に朝陽を見るのは初めてに近い。
よく考えれば、それもおかしな話だ。
プッと吹き出してしまわないように心の中で思い出し笑いをすると、少し怪訝そうな表情をするのに青年は気付いた。
心の中だけ、と思っていたのに、外に出ていたのだろうか。それとも心の中を読まれた?
お互いにそう思えてしまうほど、ツーカーであり、いまのような表情も、他の表情もよくしっているのに、目の前の相手との朝陽の思い出は、数えるほど。
こんな普段とは違う場所で、違う行動を共にしていて。
いつもとは違う相手に、いつもと違う魅力を感じてしまっても仕方がないというもの。
青年はそうやって自分自身を納得させて、朝陽を見つめに戻った相手の横顔を見た。
「地平線も見たいね」
一緒に。
そう告げられて、いつか、これよりも先の未来に、隣に自分がいることを想像する。
今の時点では、きっと相手もその世界を思い描いていてくれている。
それを感じる、いうよりも信じることができる。
ふたりの間の手が、それまでよりも強く、きゅっと握られる。
互いに、自然に、強められる絆。
「いつか、一緒に」
強めた手と同時に声に出せば、相手は少しはにかんで青年の方を向く。
そして、青年は更に繋いだ手に力を込めて、顔を近づける。
「・・・・いって!」
ペシっと額を叩かれて、お互いの距離を元に戻す。
「近すぎ! 調子に乗らない!」
「ひっで! もうちょっと手加減しろよ!」
ふざけながらそう告げれば、耳まで赤く染まった少女の顔がプイッと背けられた。
その仕草に、思わず抱きしめたくなるが、それをするといつものじゃれ合いに戻ってしまうので、耐え忍んだ。
ポッポと興奮した頭を冷静に戻すため、青年は思い切り息を吸い込んだ。
このままの関係でいたい。それでも少し先も見ていたい。
ふらふらと微妙なバランスを何年続けていくのだろうか。
それでも、相手との約束を、いつか果たすために、いまはまだ、もう少しこのままで。
「ごめん、悪かった」
ぎくしゃくした関係になって、このまま終わってしまうのはなによりつらい。
そう考えた青年は自分から折れて、この場は丸く収めたのだった。
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お題:「地平線」「ぱぴぷぺぽ」「つないだ手」
お題提供:たんぽぽ様
ぱぴぷぺぽが難しかったですが
文頭に擬音語を持ってくる、という荒業でお題クリア、できたつもりです。
『パッと』『ピンと』『プッと』『ペシッと』『ポッポと』
いろいろと考えられて楽しかったです!
ありがとうございました。
コメント
お題で書いてくださって、ありがとうございます。
生まれたばかりの朝の空気や
静けさを
感じながら
読ませていただきました。
ぱぴぷぺぽ
いじわるな題になってしまって、ごめんなさいね。
どんな風に書かれるのか
わくわくしていました。
さすが!!です。
青年のこころの動きも、よくあらわされていますね。
コメントありがとうございます♪
今回は難しいながらも、工夫のしがいがあり
いつもお話を書くのは楽しいのですが
別の方向でもとても刺激になり、楽しかったです。
またよろしくお願いします!