「十二夜」「さしかかる」「憲法色」
2015年10月22日 ネタ帳 コメント (2)朱く煌々と燃える炎がある。
長い長い冬の最中、そこだけ季節が夏の盛りのように明るい。
人々はそこに集い、酒を煽り、踊りを踊る。
着飾った者も、みすぼらしい者も、みな我を忘れて踊り狂う。
冬の食物の乏しい時期だというのに、年を越してからも6日間続けられた宴ではたくさんの料理が並ぶ。
冬の寒さが厳しい時期だというのに、それを感じさせないほどに人々は楽しそうだ。
朝から晩まで喜びを身体全体で表現し、12日間祝い通す。
馬鹿騒ぎが許される数少ない時であり、この期間は国庫から助成が出る。
民への贈り物は、普段貧しい生活をしている者にも等しく分けられる。
それだけこの日が特別だということだ。
「おかあさま」
「はいはい、ちょっとお待ちよ」
倖せな光景は、大人たちだけのものではない。
まだ信仰の浅い子どもたちにも、その恩恵を受けることができる。
「はい、おめでとう」
「ありがとう」
またひとつ、笑顔が増える。
子どもに対しての贈り物はお祝いの最終日という慣わしになっている。
お行儀よくお礼をいえたアリッサは、プレゼントを持って駆けだした。
家に入り、寝室へと駆け込む。
アリッサ用に衝立で区切られた空間は、狭いながらもプライバシーが保てる個室風だ。
特に今日は家族が皆お祝いのために外で過ごしている。
この寒い中、お酒で身体を温め、炎を囲み踊っている大人たちの気が知れない。
お酒よさがわからずに、倣いとしての一口だけで全てを呑んだわけではないアリッサにとって、火にあたっていても外は寒い。
お祝いだということは理解しているし、有難いということもわかっているのだけれど、あそこまでの乱痴気騒ぎに加わる気にはなれなかった。
最初の2日、3日くらいまでは楽しく参加していたのだが、それ以降はついていけない。年が明けてからはさらに悪化している。
それでも、この日のために耐えてきた。
いい子でいないとプレゼントはないよ、と脅かされて過ごした1年間。
家の手伝いも、近所の手伝いも、学校も、頑張ってきた。
毎年この日が来るのを楽しみにしていたのだ。そして今年こそは、と。
「・・・・どうか、どうか」
国から、子どもたち一人一人へと贈られるプレゼント。
親が用意したものではなく、この国というよくわからないものから。
子どもたちは学校で希望を書き、それがもらえたりもらえなかったりする。
国王がその子に見合ったものを手紙を見て直々に選ぶらしいとか、ただ単に子どもが好きそうなものを多数用意してくじ引きだとか、いろんな噂はあるものの。
それでも貧しい暮らしを強いられることが多いこの国の民にとって、それはとても嬉しいもので。
「・・・・・・・・!」
丁寧に包装紙を開き、中のものを取り出す。
ランプの灯りが揺れる中、それを広げた。
「・・・・やった」
ぽつり、と言葉が出てきた。
「やった・・・・・!!!」
憲法色の衣を胸に抱き、喜びの声を上げる。
いままでの努力が報われた、きちんと評価されたことが嬉しかった。
アリッサが書いた言葉は「国立学校へと進学したい」という文字。
成績優秀で、素行がよい者は、年齢問わず上級学校へと進学できる制度がある。
義務教育を終えていなくとも、将来有望と認められれば、国庫から勉強する費用が出してもらえるのだ。
アリッサは日々努力を重ね、そしてついに勝ち取った。
憲法色のローブは、国立学校の制服だ。
「これでこの村から出られる」
同じ作業、同じ顔ぶれ。毎日の繰返し。
村のことは嫌いではないが、もっと広い世界を視てみたかった。
外へ勉強にいこうにも、旅費すら貯めることができない。
村で生活する分には、物々交換で事足りてしまうため、通貨が重要視されない。
教科書や本の中だけでしか知らない世界をみたい。
その想いが、そして日々の頑張りが認められた。
「これで世界に一歩近づいた」
夜も更け、日付が変わる時刻に差し掛かる。
大人たちは何不自由なく唄い、笑い、踊る。
年に何度もない、こんな贅沢を思い切り楽しんでいる。
日々の生活に感謝しながら、日々の営みに疑問を抱かず。
「これはこれで幸せ。それでも、もっと別の」
世界が見たい。
それがアリッサの願いだった。
その夢を叶えるための第一歩を、彼女は踏み出そうとしていた。
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***この物語はフィクションです(当然)***
お題:「十二夜」「さしかかる」「憲法色」
お題提供:たんぽぽ様
難しかった・・・!
憲法色とは
十二夜とは
・・・・インターネット万歳。
シェイクスピアの十二夜かな、とも思いましたが
元々の意味のクリスマスから12日目、1月6日ということで。
色々と調べるとクリスマスではなく
公現祭にプレゼントを贈る風習がある地域があるとかないとか。
架空のお話にするのに実際の信仰をどう絡ませればいいのか悩みました。
憲法色(黒褐色)も色見本を探したりして、イメージを膨らませました。
日本の色名って知らないものが意外と多いので
楽しいです。
ありがとうございました。
コメント
「十二夜」も「憲法色」も調べてくださって
そこから、こんな膨らませて書かれて
想像を超えた物語でした。
「これはこれで幸せ。それでも、もっと別の」の言葉も
端的に現わされていますね。
言葉を知る、ということはまたひとつ新しい世界を知る、ということ。
いま見ている世界が、もっと別の表情を持っていることの証しの様な気がします。
どんなにつらくとも、それは私の知っている世界であって、
もっと広く深く知っていけば違う見方ができるかもしれない。
そんな風に思います。
ありがとうございましたー