散歩の途中、道端に紫色の花を見つけた。
 水仙の葉よりは大きく、菖蒲の葉よりは細い葉をつけたその花は、すぅっと他の花、自分でも知っているようなかなり有名な花、をみていた自分の瞳を惹きつけた。
 何と云う花なのだろう?
 首をコテンと左に傾げて、うーん、と唸る。
 ついこないだ開いた気がする植物図鑑の写真と目の前のそれを合致させることに必死だった。
 頭の中のページを捲れど捲れどその花の色は出てこない。似ていると思う花はあるのだけれど、それもこの色ではない。
 頭の中が飽和状態になって、ぐてんと頭を後ろに倒すと、ヘブンリー・ブルーの空に雲がモクモクと生まれている。

 しばらくその雲の流れを眺めていたが、ちょっと目の前がくらくらしてきたのに気づいて、慌てて頭を正常な位置に戻す。
 だが、慌てたせいで、急な動作だったため、余計に目の前がくらくらした。

 それが収まると、よし、と思い立ち、すっくと立ち上がった。
 その途端また目の前が真っ暗になり、世界が歪む。
 すんでの所で持ちこたえ、転倒には及ばなかったが、危ないところだった、とはふ、と息を吐く。

 偶の外出。偶のお散歩。この身体が疎ましい。
 ベッドの上で図鑑や本を見ているのも楽しいけれど、こうも体力がないのでは、実際に本物を見ることができるのは少ない。
 医師の許可が出て、1人で療養所の中にある緑溢れる場所にやっとこさ来れたというのに、こう頻繁に頭がくらくらするのはいただけない。
 
 とにかく、あの花の名前を早く部屋に帰って図鑑で調べよう。
 摘んで行ってしまうのは心苦しいから、その花の咲き誇った姿を目に焼き付けて。

 あの、薬品の匂いの充満した部屋に帰ろう。
 
 そしてまた、あのブドウ糖と気管支拡張剤とその他もろもろの詰まった液体を身体に流し込む管を差し込むの。
 
 
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
お題:『水浅葱色(ヘブンリー・ブルー)』『すっくと立つ』『露草』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
露草は、描写だけで名前が出てきてませんね。
しかしこれもまた取りとめもなく書きました。
 
 
 
 
 

朝霧の中

2008年6月28日 ネタ帳
 
 
 
 
 
 いつものように朝陽が昇る前に起きた自分は、包まっていた毛布を几帳面にたたんで、寝ぼけたままの状態で水場へ向かった。
 朝露に濡れたまだ陽の当たらない草たちをきしきしと踏みしめて、十分に湿り気を帯びた空気を吸い込みつつ進むと、木々が分かれ、開けた場所に出た。

「あ」

 小さな湖の中で水浴びしている人影を見つけて、思わずどこか隠れる場所はないものか、と辺りを見回す。
 それでも、そこは明らかに開けていて、岩らしいものもなければ、木の陰に隠れようと思っても約5メートルは来た道を戻らなければならない。
 仕方なし。自分は悪くない、悪くない。
 そう自分に言い聞かせても、良心が痛む。他人の入浴、この場合は水浴びだが、を見るなんて、よっぽど気心知れた人以外はない。
 公衆浴場なら別だけれど。

 そして、取り敢えずは見ないように、湖には背中を向けて立つ。
 幸いなことに、人影こそ見えど、この朝霧の中では相手が誰なのかは判らない。
 早くこちらに気づいて、出てくれれば、と思うものの、こんな森の中で、静かに水浴びをしているのを邪魔するのも気が引ける。
 確か前の村からここまで3日程かかったはずだ。それまで立ち寄れる場所はなく、湧き水があるおかげで飲み水には困らなかったが、ここまで茶店の一つもなかったのだから、ここで旅の疲れや泥を落としたい気持ちも解るから。

 東の方角が、少しずつ色を変えていく。霧も少しずつ薄れてきた。

「あれ、お前、何やってんの?」

 カサ、と低木が揺れる音がして、驚いてそちらを見やると、見慣れた旅仲間が。
 だが、問題はそこではない。そう思ったときの反応は早かった。

「しーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「な、なんなんだ???」

 素早く立ち、仲間の肩を腕で引き寄せて、その場にしゃがみ込ませる。
 全く事情がつかめず目を白黒させているこいつには悪いが、声を潜めるように注意する。

「ひと、いるだろ?」
「??」
「水浴び中!」

 潜めている所為でかすれた声で怒鳴ってみても、凄みがなかったのか、相手はきょとんと首を傾げた。
 挙句の果てには、湖の方向にちらりと視線をやると、ため息を吐きつつふるふると力無げに首を振った。

「いないよ」
「は?」
「だから、いないんだよ」

 自分で確認してみろ、とでも云いたげに湖の方向を指差す相手に、自分も恐る恐る振り返る。
 朝霧が晴れ、東の空から光が降り注いだその場所は、思わず見惚れてしまうほど美しかったが、そこに先刻在ったはずの人影はない。
 思わずあれぇ、と間の抜けた声を上げて首を傾げた自分に、ケラケラと笑いつつ、肩をばしんと軽くたたいた相手は、初めにここに来たときの目的を果たすため、水辺に寄った。
 その行動に、自分もはたと目的を思い出して、同じように水際に寄る。

「確かにいたと思ったんだけど」
「見間違えじゃない?」
「う〜〜〜」

 水浅葱色の湖面に両手を入れて、その澄んだ水を掬い上げると、バシャバシャと顔を洗い、それから完全に頭を冷やすために、水の中に頭を突っ込んだ。
 勢いよく顔を上げて、左右に大きく頭を振る。

「水飛ばすなよ!」

 そんな抗議の声の方に手を伸ばすと、当然のように布を渡されて、それで顔を被って一息つく。
 自分が見たものはいったいなんだったのか。
 霧が濃かったとはいえ、確かに人の気配であった。ということは、自分が悶々と1人考えている間に上がった、ということか。
 はらり、と顔を被っていた布が落ちた先を見ると、何処にでもある露草が朝陽を浴びてこれでもかというほどきらきらと光っていた。
 否、何処にでも在る、という表現は少々間違いだ。自分が見たことの在る中では断然に鮮やかな色を放つその花は、可憐でいて、力強い。
 
「んでは、長居するのもなんだし、そろそろいきますか」
「ん? あぁ、うん」

 そういわれて初めて、随分と長い間ここに留まっていたことを思い知る。まだ明けていなかった闇色は、もう既に明るい青に変わっている。

 すっくと立ち上がると、自分達が野営していた場所へと歩き出す。
 朝露はまだ乾かないが、来たときよりも明るい色の草は更に命の輝きを増していて。

 麻袋に道具を詰め込んで、そして担ぐ。
 木々の間から差し込む陽光は柔らかく、やっと起き出した鳥の声が、まだ眠そうに囀りを響かせる。
 山道ではあるけれど、それほど整備された道ではない、半分獣道であるその道を、西へ向かって歩く。
 他の仲間たちも準備を終えて、後ろをついてくる。

 大丈夫、大丈夫。

 そう呪文のように心の中で唱えると、静かに口角を上げた。
 仲間たちの話し声が心地いい、そう思えるようになったのはいつからだろう。
 煩わしいだけだと思っていたこの関係が、頼もしく思えるようになったのはいつからだろう。
 人に心を開くまいと思っていた自分が。
 
 
 それにしても、あそこにいた人は何処に行っただろう。

 そんなことを考えつつ、今日もまた、西へ向かう。
 
 
 
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
お題:『水浅葱色(ヘブンリー・ブルー)』『すっくと立つ』『露草』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
 
 
・・・・・・訳わからん話になった。
何となく、雰囲気で書いた話です。
別に細かい設定もないまま、オリジナル。
どこかに旅してる一行、ということで。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 紫陽花の時期が過ぎ、瑠璃色の空にはミルキーウェイが鮮やかに流れる。
 あれの一つ一つが自分で発光する太陽級の星星なのだと思うと、この星の小ささと、そして何より自分の小ささを思い知る。
 そして、自分の中にはたくさんの命。
 植物、それを育てたバクテリアや、小さな虫たち。
 動物、そしてそれを育てたたくさんの植物たち。 
 
 人間なんて自分で光ることもできない。
 武器を持たないとこの食物連鎖の真ん中辺りにしか位置しない生物なのに。
 何故にこんなにもたくさんの命を喰らって生きているのだろう。
 
 朝もいで食べたみずみずしい真っ赤に熟れたトマト。
 朝露にぬれたそれは、無農薬栽培のおかげで洗う必要性もなく、そして高原のおかげで適度に冷やされていた。
 かじりついた先からこぼれ出る雫は、それも確かな生命の証。
 
 幾多の命を犠牲にして成り立っているこの身体。
 たくさんのものに感謝して、たくさんの命に敬意を払って。
 それでも、なぜ僕は考えてしまうのだろう。

 僕も何かに食べられる存在だったら良かったのに、なんて。
 
 それなら少しでも生まれてきた意味が理解できたのに、なんて。
 
 
 
 
 
 
++++++++++++++++++++
 
短かっ!
まぁ、それもそのはず、SSというより散文だから。
お題を使ってなんでこんな痛い話を書いてるのだろう。
でも常々思ってることなんで。
 
 
お題:『紫陽花』『瑠璃色』『みずみずしい』
お題提供:たんぽぽ様
 
 
 
 
 

雨音。

2008年6月19日 ネタ帳
 
 
 
 
 しとしとと昨夜から降り続く雨はまだやむ気配が無い。
 一度夜半過ぎに強い雨へと変わったけれど、それでも猶、降り続けている五月雨は、私の気分を憂鬱にさせていた。
 じわじわと湿度を上げるその雫は、不快指数をもどんどんあげているようで、雨が降ったときのあの清涼感は感じられない。
 滝の傍に居るような、マイナスイオンを感じるような霧雨ではないし、かといってバケツをひっくり返したような大雨でもない。
 ただただ降り続けるだけのその雨は、縁側に座っている自分の目の前に小さな水溜りを作っている。
 雨樋に溜まった雨がぼとり、と音を立てて地面に落ちた。
 跳ね返った小さな飛沫が、音も立てず十分にお湿りをもらった地面に吸い込まれていく。
 一週間ほど前から咲き始めた紫陽花は土壌のせいか、青みを帯びた紫色で、確か玄関先にあったのは赤みを帯びた花だったように思う。
 どちらがアルカリ性で、どちらが酸性だったか。
 遥か昔に習ったような気がするが、いまいち記憶がはっきりとしない。
 でも、それを知らずとも生きてはいけるのだから、人間とは。
 
 いつか見た真っ青な紫陽花や真っ白な紫陽花はきっと種類が違うのだろうけれど。
 
 何とはなしに庭を見るけれど、そこには変わらず、むき出しになって湿りを帯びた砂地と、その向こうに季節の植物が並んでいる、いつもと同じ風景。
 否、いつもと違うのはこの雨。
 初夏を迎えた庭に植えられた木々は、その葉をめいいっぱい茂らせ、その葉の色を濃くしている。
 雨の匂い。
 嫌いではない。けれど湿度が高いと息がしにくいのは体質のせいか。
 今はスーパーに行けばいくらでも季節外の果物がみずみずしい状態で手に入るけれど、左奥に植えられた、旬の木になってまさに熟れ始めている枇杷ほどみずみずしいものは無いだろう。
 
 目の前の水溜りに視線を落とす。
 途端にぼとりとまた雫が落ちてきて、波紋を広げた。
 むき出しの地面のせいで土が溶け出し、透き通った色ではないが、確かに歪んではいるが自分の顔が映っている。
 波紋が収まるに連れ、輪郭さえ明確に映し出す水鏡に、ためいきをつく。
 
 日本で生まれ、日本で育って、日本が大好きだ。
 だけど自分のこの瞳は嫌いだ。
 黒髪に、黒と見紛うほど暗い青。
 母が云うには、ラピスラズリの様に、日本で云う瑠璃色をした瞳は、ある時からずっと、暗く濁っている。

 別に目に障害があるわけじゃない。
 そうではない。ただ・・・・・・
 
 
 深く息を吐いて、そして上を見上げる。
 相変わらずの曇天だが、少しだけ太陽の光が透けてきた。
 そろそろこの雨もやみ間を迎えるだろう。
 
 
 ただ、この胸に広がる波紋と、目を閉じれば聞こえてくる雨音を残したまま。
 
 
 

 
++++++++++++++++++++
 
 
何か変な話だ。後は皆様の想像にお任せします。
家の紫陽花は青系ですね。ちなみに枇杷は玄関先にあります。
今はきゅうりがものすっごい勢いで大きくなってます。
ちょっと前までアスパラが頑張ってたんだけど、過ぎたかな。
 
 
ちなみに夏みかんは年がら年中なってます。
去年のが落ちないままなんですよね。
 
 
お題:『紫陽花』『瑠璃色』『みずみずしい』
お題提供:たんぽぽ様
 
えーと、瑠璃色は2回目ですね。
本のサイトで書きましたね、えぇ。
確か瑠璃色の宝玉とか書いた気が・・・
二次創作でしたが。
 
 
そろそろ創作意欲がわいてこないかなぁ。
二次じゃなくてオリジナルが書きたいよぉ。
SSじゃなくて長編。
 
 
 
 
 
 
 暗い部屋の中、ごそごそと動く物体が在る。
 本が焼けるから、とカーテンを閉め切ったその場所は、昼間でも薄暗いが、それでも十分な光が差し込む。
 本棚の間で一つ一つ本を手に取って何かを探していたその人影は、今自分の持っている本をパタンと閉じると、ため息を吐いた。
 
「・・・どこ行ったんだろう」
 
 はふ、と息を吐き出したその声は、わずかに震えている。
 随分と長い間そこで作業していたのだろう、その人物の手は埃にまみれ、何年も埃が溜まっていた場所には足跡が残されている。
 随分と前にここから出してきた1冊の本。
 そこに挟んだ一枚のしおり。
 そして片付けてしまったその本のタイトルは、自分の記憶から抜け落ちてしまっている。
 改めて辺りを見回すが、そこは整然と並べられた本棚と、本のみ。
 埃くさくて、インクと古びた紙のにおいが充満したその部屋は、はっきり云って居心地の良い場所ではない。
 いくら本が好きとは云ってもこれは溜めすぎだし、虫干ししなければ本が傷むというものだろう。
 少し空気を入れ替えようとその部屋の東にある窓により、カーテンを開けて、一気に窓を引き上げた。
 途端に部屋の空気が回り始め、爽やかな緑色の風が入ってくる。
 柔らかな草木のにおいが鼻をくすぐると、すぅっと息を吸い込んだ。
 一年で一番好きな季節。
 この時期の柔らかな自然の光も、草木のにおいも、雨の前の湿った空気も、何もかも愛しいと感じる。
 窓の前に立つ大きな樹の木漏れ日が、一瞬強くなって思わず目を細めた。
 瞬間にバランスを崩した身体は、本棚にぶつかり、重量の重いその木の枠は、ぐらっとよろけて、何冊もの本をその棚から放り出した。

「うわー、大変だ」

 一瞬の出来事に、舞い上がった埃が肺まで入ってきて、げほげほと咳をする。
 そして改めて、今の衝撃で放り出された、定められた場所に納まっていたはずの本たちを見て、額に手を当てる。
 しかし、そのまま立ち尽くしていても何の解決にもならない。今の音を聞いて誰かが駆けつける、何てことありえないのだから。
 仕方なしに床から1冊ずつ拾い上げて、幾冊かを抱えて本棚と向かい合い、片付けていく。
 その作業を何度か繰り返していく内に、明らかにそこかしこに散らばった本とは違うものを発見した。
 はっきりと明確にそのページを開くようにしおりが挟まっていたのだろう、その本を手に取り辺りを見回す。

「・・・・・・あ、あった」

 一枚のしおりは、他の本を少し除けた場所に静かに舞い落ちていた。
 ラミネート加工されたそのしおりの中に挟まっていたのは二股のオリーブの若葉。
 いつか一緒に行ったオリーブ園でやっていたカップル限定のサービス。
 二股のオリーブの葉は色あせることなく、そこに収まっている。打刻された印は、数年前のことを鮮やかに思い出させる。
 二股の葉・・・ちょうどハート型に見えるその葉を見つけてくれた君の笑顔が思い出される。
 ぐっと右手でこぶしを作って、想いを固くする。

「・・・これ、片付けてる時間は無い、か」
 
 未だ散乱したままの本たちに心の中で手を合わせ、しおりを大事に仕舞って駆け出す。
 まだ、間に合う。そう信じて。
 
 
 君の傍に居たいから。
 改めて自覚した自分の想いと共に―――
 
 
 
 今にも泣き出しそうだった昨日の君の声を思い出して。
 
 
 
 
 
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お題:『若葉』『本棚』『間に合う』
お題提供:たんぽぽさん
 
 
 
久々に恋愛っぽいものを。
完全にオリジナルのSSを久しぶりにかきましたよ。
でもあまり乗らなかったのは何ででしょう。
期間が開きすぎたか。
この3つのワードを見たときにネタの神様光臨してたから
書くまでにこんなに時間がかかるなんて思わなかった。
ちなみにこの、二股のオリーブを加工してくれるのは
確か小豆島のオリーブ園だったと思います。
すんごい記憶があいまいですがローカルな番組だったはず。
カップル限定じゃなくて女性限定だったかな・・・?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 行き交う人々、街にあふれるイルミネーション。
 それを『綺麗だ』と評する人は多いかも知れないが、自分には電飾を巻きつけられた木々が痛々しく見える。
 自然な姿ではなく、人工的な『幻想』的な世界。
 例年よりは暖かいらしいが、それでもやっぱり、この寒さは身にこたえる。
 別に年取った、とかそういうのを理由にはしたくない。
 コートのポケットに突っ込んでいた手を出し、ぐるぐる巻きにしたマフラーを口元まで引き上げて、空を見上げた。
 この季節なら、この明かりがなかったら、澄んだ空気で星がたくさん見えるのに・・・。
 そんなことを考えながら、人の群れにぶつからないように、縫うようにして大通りを行き過ぎる。
 
 
 そして思い出した。あの過ぎた日々のことを―――
 
 
 
「あなたはやさしいから」

 そういった君の瞳には、涙が溜まっていて。

「だからわたしを傷つける言葉を言えないのよね」

 別にそういう訳じゃない。
 そう口にしようとして、押し黙る。
 君のその唇が、更に言葉を紡ぐのを見たくなくて。
 
「だから、さよなら」

 俯いた自分にかけられた、そんな一言。
 理解っていた、始まったときから、終わりが来ることは。
 見えていた、なんていったら失礼か。
 親の言いつけのままに、俺に会って、俺の恋人として、そして妻として過ごした時間は君にとって幸福だっただろうか。
 
 上司命令。
 
 別にそれが嫌だった訳じゃない。
 ただ『見合いしないか』と持ちかけられ、それに応じた。
 始めてあったときの第一印象は、綺麗なひと、単純にそう思った。
 話せば話すほど、距離は近くなり、それぞれの趣味を知り、そして、自然な流れで結婚した。
 すごく自然なことで、俺にもこんな人生があるのか、と不思議に思ったほどだ。
 彼女の父親は、俺の『特能課』としての実績を知っていて、それで持ちかけたのだろう。
 将来、階段を上ることを想定して、自分の側に置いておきたかったのかも知れない。
 『敵に回すと厄介だ』、ただ単純にそういった理由かもしれない。
 
 彼も知らなかったのか、彼女が知らされていなかったのか、それは判らない。
 
 幸せな家庭を築こう、そう思っていた。
 でも、気丈に見せていた彼女の、時折見せる怯えた様な表情に、伸ばしかけた手を引っ込めた。
 何を、怯えているのか。
 今までの自分を顧みれば、それは至極簡単な結論で。
 でもその時の彼女の揺れる瞳に、その真実を知りたくて。

 触れた途端、彼女は小さな悲鳴に似た声を上げてその場に崩れるようにして泣き始めた。
 
 その瞳は見開かれ、俺を見ている。
 ―――違う。俺じゃない。俺の中にある『テレパシスト』の俺を見ている。
 嗚呼、気づいてしまったのか。
 嗚呼、君も受け入れてはくれないのか。
 
 理解、していたつもりだった。
 この『能力』がある限り、他人からは愚か、身内からも距離を取られると言うことは。
 だから隠して生きてきた。
 刑事になってから、俺の尋問の仕方に興味を持った研究所が、俺を研究所での最初の『精神感応者』として登録したことも、それは俺の生きる『場所』を与えてくれたこととして感謝していた。
 卑屈になっていた心を、ただのコンプレックスでしかなかった『能力』を、初めて、利用価値のあるものとして認識させてくれたから。
 
 なぁ、そんなに変か? そんなに嫌われなきゃいけないか?

 そんな疑問を持って、泣き崩れる彼女の父親に連絡を取ると、俺はしばらく彼女に会わない方が良いと思い、傍を離れた。
 しばらくして、上司伝手に、彼女が落ち着いたことを聴き、家に戻るように促された。
 それはある種の拷問に近い―――
 それでも戻らないわけにはいかなかった。あそこは俺の家だし、荷物もあそこにあるわけだし。
 家で迎えてくれた彼女は、昔のようでいて、まるで違っていた。
 俺を気遣う振りをしながら、俺の顔色を伺っている。
 彼女が何を考えて、どうしてそんな行動をとるのか、心を見なくても明らかだった。
 寧ろ、見るほうが怖かった。
 
 気づかないフリをして、その時折見せる怯えた瞳を、見ないフリして。

 表面上は、仲の良い夫婦だったことだろう。
 
 過度に干渉せず、お互いの距離を保って。笑いあう。
 滑稽に思えたけれど、彼女が我慢をしていることを俺が気づいているなんて、言えるわけがない。
 彼女の精一杯の譲歩。理解しようと努め、それでも理解できないと怯え、それでも、受け容れようとその細い身体で虚勢を張っている。
 
 なんて、弱い生き物だろう。
 
 心なんて覗かなくても、理解ってしまうほど近くにいるのに。
 覗かれないか心配で、必死に心を隠している。取り繕って、笑って。
 幸福な家庭って何だろうか。
 俺は、心を覗くことに抵抗感がある。それは他人との距離を忘れさせるから。
 時々無理やり捻じ込むように入ってくる他人の強い思考は、頭痛をもたらし、決して気持ちのいいものじゃない。
 愛されていた記憶はあるのに。
 それよりも鮮明に拒絶されたときの記憶が蘇る―――
 
 仕事上、刑事課の奴らとはそれなりに付き合いがあった。
 何より俺を可愛がってくれた警部が、俺を『普通』として扱うから、他の皆も、他の『能力者』と同じように。
 多少の畏怖の念はあっても、拒絶ではなく、それは『仲間』としての扱い。
 誰だって、自分の心が裸にされればいい気はしないだろう。
 そんな『能力』を持ってる俺に対してあまりいい感情を抱かないのも頷ける。
 俺がもし『普通』の人間だったなら、俺のような『能力』を持った人間とは付き合いたくなかっただろう。
 
 だがしかし、Ifで括られた括弧の中は、飽くまでも想像の域でしかない。
 実際に俺は気づいたときには他人の思考がまるで自分のもののように感じてしまっていたし、その『能力』が忌み嫌われるものだと気づいて隠し始めるまで、そう時間はかからなかった。
 兄弟喧嘩には、必ずといって良いほど先回りして俺が勝っていたし、親に褒められたくて望まれていることを自然と先回りしてやっていた。
 俺にとって『自然』なことでも、家族にとっては『不自然』なことだったんだろう。
 俺のことをしきりに不思議がっていた。疑念を抱いていた。さすがに、それが所謂、超能力と呼ばれる類のものであることまでは想像がつかなかったらしいが。
 
 気づいて、俺はそれを封印して、自分の自分自身の力だけを頼りに、進学し、それなりの成績を収め、警察官になった。
 まさかそこに研究所があるなんて知らなかったけれど。
 
 
 今でも瞼の裏に焼きついてはなれない、モノクロの世界とやけに鮮やかに残った君の唇に乗った紅色が、胸の奥を締め付ける。
 足早に、駅前から、路地を入ったところにあるマンションへと歩を進める。
 慣れた手つきで、暗証番号を押し、エレベーターであがっていく。
 蛍光灯の明かりのついた廊下を、目的の部屋まで進む。
 インターホンを鳴らして、微笑む。

「あ、兄さん、お帰りなさい」

「あぁ、ただいま」

 この子のこぼれんばかりの笑顔に、どれほど癒されてきただろう?
 同じ『能力』を持った、過去に傷ついた記憶を持つ『後輩』。
 このフロアに住むのは多かれ少なかれ、過去にトラウマを持つ、世間から隔離された『能力者』たち。
 それだけでも、心が落ち着く。
 ここには、俺を畏怖するものは居ない。

「今日は何が食いたい?」

「うーん、特性ピラフ」

「お前は、そればっかりだな」

「だって兄さんの作るピラフはサイコーやもん!
 せや、最近新入りが増えたんやけど、その子呼んでもええかな?」

 俺が頷くのを確認して、香は何件か先の近くの扉を叩いた。
 俺は沈んでいた気分を浮き上がらせて、キッチンに立つ。
 下準備をしていると、扉が開くのが判った。

「お邪魔します」

 ちょっと控えめな声で紡がれた言葉は、それでも存在感は希薄ではなく、寧ろ強い印象を受けた。

「あぁ、いらっしゃい」

 それが、俺が奏くんと初めて会った夜。
 
 
 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
はい、カテゴリとしては『能力』ですね。
良嗣兄さんの過去話。というか、何と言うか。
香があっちにトリップしている間は
まだ、明確な『離婚』という形はとってません。
ただ、避けられている、状態で。
香が帰ってきてから、ますます香に構いっぱなしになりつつ
奥さんの気持ちも配慮しつつ、距離を取りつつ
でも、自分から壊すことはしたくない、といった感じですか。
まぁ、良嗣さん自身に彼女が好きだ
という気持ちが無くなったわけじゃなくて
要は、彼女の問題、なので。
やっぱり、『能力者』と一般人ではきつい物があるのかな、と。
その分、香は恵まれてますね。
トリップした先でも、それは面白がれこそしろ
拒絶反応を受けなかったので。
まぁ、香がコントロールに一杯一杯だったのもあるけれど。
 
 
そして、新キャラ『奏』。
香と良嗣、警察関係者、研究所の皆さんは『ソウ』と呼びますが
実は彼女は『時のカルテ』の方の繋がりで出そうと思ってたキャラです。
そっちでの呼び名は『カナデ』。
だから彼女が過去に旅してきた場所では殆どの人が
彼女のことを『カナデ』と称します。
彼女は何でか時空の歪に落ちやすい体質、と言いますか
色んなパラレルワールドを経験してきていますので
使える技はESPに限りません。体術、魔法、忍術、錬金術・・・
その辺の能力は研究所にも秘密にしてあります。
基本能力は『心眼』『先読み』。
流れを読むことに非常に長けた子です。
流れ者なのでこの世界では異物的存在ですが
それなのに存在を認められていると言う稀有な存在。
空間との相性が良いらしく、どの世界でも拒絶反応が起こることはなく
文字も言葉も普通に通じるようです。

ただ、香のように異空間転移は自分の意思ではどうにもならないようです。

そして、あまりにも長い時間飛ばされ続けてきたので
自分の年齢をはっきりと覚えていません。
『純血日本人』というのは遺伝子学的にもはっきりしてるのですが。
 
 
 
そして、今、彼女を軸に、幻水5のトリップものを捏造中。
 
載せるか否かは、その時のノリで。
 
 
 
 
 
 
 
 

あーあーあー

2006年9月25日 ネタ帳
 
 
 
 
 
「ははら、ほこひきっへいっへるへほ」
 
 
 
 
「あーあーあー!もぅ!食べるか喋るかどっちかにしてくんない?」
 
 
 
 
 暫らくの沈黙後に隣の波多野は再び口を開いた。

「だから、さっきの所右だったんだってば」
「はぁ?タイミング悪っ」
 私はいったん乗ってた自転車を降りてUターンをする。
 まったく、こいつを道案内に選んだのが間違いだった気がする。
 でも自分じゃ絶対迷うし、迷う前から道わかんないし。
 だから無いよりもマシかなーと言う程度のナビゲーター。
 居ないよりはマシ・・・だと思う。
 とりあえず目的地に着々と近付いている訳だし。
 ただ、タイミングの悪さとこの食い気さえどうにかしてくれたら・・・。
 
 
 私達は行く筈だった学校からどんどん遠ざかって、山の方へ向っていた。
 朝起きたら寝覚めが悪くて、その招待はハッキリしてたけど、そこへ行くにはどうにもこうにも自分だけでは頼りなくて。
 と言うよりも寧ろ自分だけで行くのは不可能だ。
 この辺は場が悪すぎる。その影響でほとんど毎日寝不足だ。
 毎晩訪れる客達の相手をするのもそらマナーかな、って思ってた時期が懐かしい。
 今じゃ完全無視。ただ単に睡眠妨害になる相手なだけ。
 そんな中でも波多野は毎日って言うほど家に通ってたし、話もそこそこ面白い。
 眠れない夜なんかは、こいつらと話して気持ちを楽にさせてもらってる。
 と、まぁ、少しは利害が一致しない訳でもないのだけれど。
 
 
「ぅわー寒い寒い!!」

「あー、もう近くだもんねー持ってきたカーディガン着たら?」

「気休めなんて言わないで!
 着ても意味無いのあんたが一番良く知ってるでしょ!」

「あーぁ、可愛い顔が台無しだよ〜?」

「だ〜れ〜が〜そんな思ってもないようなこと口にするのはこの口かー――っ!?」

 振り回した右手。波多野は笑ってそれを避けて、ぽんと背中を押す。
 合図だ。半径50m以内に居る、事になる。
 
 
 ゆっくりと辺りを見渡す。ふと神社の社から何かが出てくるのが判った。
 
 
 
「待ってたの、ずっとここで」
 
 
 そう言った少女は躊躇いもなく近付いてくる。
 
 
「あたしね、もう良いかな、って思うの」
 
 
 髪の長い、中学生くらいに見える女の子だ。
 
 
「別にそれほどこの世を恨んじゃいないのよ」
 
 
 確かな近付き、その一歩一歩が確かなほど彼女の記憶がなだれ込む。
 夜道に1人歩いていた彼女をひき逃げした犯人を彼女はもう追おうとはしていない。
 たった一瞬で奪い取られた命を悲しんでいる訳でもない。
 ただ、単純に、家族に安心して欲しかっただけなのだと、彼女の心は語る。
 でも一緒に居れば一緒に居るほどツライ思いをさせているようで、申し訳ない。自分が居たのでは、その傷を忘れる事もできないだろう、と。
 
 和やかで穏やかな記憶が次々になだれ込んでくる。
 
 
「ほら、仕事だよ」
 
 
 いつの間にか茫然自失となっていた自分に波多野が呼びかけた。
 目から溢れ出す涙を止める事はできない。
 だけど、だけれど。
 
 
 
「だから、お願い届を出したの」
 
 
 涙で視界がぼやけてよく見えない。多分彼女はゆっくりと目を閉じたのだろう。
 昨日お願い届を出しに来ていたのはこの子だ。
 鈍った頭でよく思い出してみれば、確かにそうだった。
 お願い届は死者が輪廻の輪っかへと戻りたい時に術師へと出すもの。
 そのお願い届を受け取った日の朝は、必ずといっていつもより『寝覚め』が悪い。
 お願い届を受け取るのはいつも夢の中だ。
 
 
 彼女の手を取って、自分の胸の位置まで持ってこさせると静かに言霊を口にした。
 彼女はうっすらと笑顔を浮かべると、光に包まれた。
 
 
 
「さよなら・・・」
 
 
 手を離せば彼女の身体は宙へと浮いていく。
 次第に輪郭はなくなり、魂魄のもとある形へと戻った。
 消え去る前に、ここを後にしよう。それが契約完了時の掟だ。
 
 
「波多野っ」

「はいはーい」
 
 
 急いでそこを後にする。見送るのは、私達の務めではない。
 彼女は今、輪廻の輪へと戻ろうとしている。
 それは極自然な事なのだから、私が泣いたってどうにもならない。
 
 
 
 でも、何故自分なのだろうとか
 何で生死の境ではないのだろうとか
 そんなことは思ってしまう。
 死者達は思い残す事があるとこの世に少なからず留まる。
 その間悲しみにくれる者や憎悪する者もいる。
 そんなに苦しい時間を過ごすならば、さっさと輪廻の輪へと返してやりたいのに。
 それができないのが悔しい。
 しかも自分はお願い届を出した本人しか送ることができない。
 負の感情を解き放ってあるべき姿へと戻す事はできない。
 
 何のための能力だろう・・・。
 
 そう思うと遣る瀬無くなる。私は家へと真っ直ぐ帰途へ付くと自転車をこぎ始めた。
 またお願い届が出される前に、この子の記憶は封印しなければ、自分が耐えられなくなってしまう。
 そんな精神力の弱さも嫌いだ。
 
 

 こんな時は早く撃ちかえって寝よう。それが一番だ。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
++++++++++++++++++++++++

何やらよく訳の判らんもんが出来上がってしまったぞ。
どうしよう・・・。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 とある昼下がり。
「おぅ、大丈夫か、ボウズ」
 あまりにも目の前に起こったことが残酷すぎて、目を見開いたままそこに腰を抜かしていた自分に掛けられた言葉はあまりにも軽くて。
「立てるか?」
 少しばかりの気遣いの言葉と、差し出された手、素直に受け取る事にさえ臆病になっていた。
 いま、一体何が起こったのか。
 それを考えようとすると頭痛が走る。人間の防御反応だろうか。
 いつまでも手を取らない自分に、その男は一つため息をつくと、目の前にしゃがんで、自分の目を見ようとした。
 目を合わせたくなくて右往左往していたけれど、結局掴まった。その優しさを持ち合わせた瞳に。
 頭に手を伸ばされ髪の毛をかき回される。
 見開かれたままだった瞳から、雫がこぼれる。
 ずっと、ずっと緊張してたんだと、今更になって気づく。
 腕の力で頭が胸板まで運ばれたことで、肩の力が抜けた。全身の力も抜けた。
 怖かった、怖かったんだ。
 あんなものを目の前で見せ付けられて。
 怖かった、怖くて仕方がなかったんだ。
 たった1人こんな場所にあんなものと一緒に取り残されて。
 ずっとずっと待ってた。誰かが来てくれるのを。あいつじゃない誰かが。
 涙が溢れて溢れて止まらない。安心とも少し違う、他人の腕の温かさに、少しホッとしながら大きな声が出るのも構わず泣いた。
 もう1人の男が、上着を肩にポスっとかけてくれた。それは決して優しくかけたわけではないけれど、これ以上泣く優しく感じた。
 何も訊かない、何も言わない。だから良かった。
 これで質問攻めにあっていたら、これで慰めの言葉を掛けられようものなら、反発して自分の心を殺さなきゃいけなかったかもしれない。
 この人なら大丈夫だ。きっと大丈夫だ。助け出してくれる。
 この暗い暗い闇の底から。
 
 
 
 
 
 
++++++++++++++++++++++++++++
突発的ネタ帳。
暗いの思いついてそのままの状態でGO。
誰かの幼少期のつもりで書いた、けどモデル不明。(無意味)
最近小説かけてないなー。ネタ尽きたかなー。
香ではかけないので番外編辺りで警察学校書きたいけど資料無いや。
妄想で行こうか。そしたらもう1人くらいメインキャラ欲しいよなぁ。
問題児と優良児とそれを傍観する・・・げふげふ。
今脳内話作りモードに入ってません。何とかしたい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ネタ帳補足

2004年12月22日 ネタ帳
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 目が覚めたのは、奇跡だったらしい。
 ここが何処なのかすら、目が覚めた時には判らなかった。
 体中ボロボロで、あちこち痛くて、泣きたくなった。
 怖かった。でも、生きてる。何でだ?
 覚えている感覚は、大地に寝ていたはずなのに、重力に逆らっていた。
 そしてゆっくりと、一定のリズムを保って揺れが来た。
 もう、目も開けていられなかった。
 
 
 
「目が覚めたか?」
 
 
「嗚呼、どうも悪い夢を見ていたみたいだ」
 
 
「・・・悪いな、お前に良い知らせを伝える事が出来なくて」
 
 
 
 そう言った同胞は、自分に刑を告げてくれた唯一の面会人だ。
 そして自分の最期を見届けるのも彼なのだろう。
 何故かそんな気がしていた。
 自分が何故生きているのかは知らない。だけど何となく判っていた。
 
 
 
 
 
 
『許さない国』
 
 
 
 
 
 
「どう言う事です!!あれは事故でしょう??」
 
 
「そうは言ってもな、現に人1人が命を落としているんだ」
 
 
「そうだ、彼を助けるために、な」
 
 
「しかも、致命傷となった傷は彼が馬から落とした所為だと言うじゃないか」
 
 
「あいつは必死で護ろうとしただけですよ?!」
 
 
「だが、その所為で人が死んだ」
 
 
「その罪は重かろう」
 
 
「・・・相手が勝手に落ちただけですよ?それでも罪に問うと仰られるのですか!」
 
 
「無論、相手が馬上から転落さえしなければ、彼の罪は無かっただろう」
 
 
「そうですな。何しろ致命傷となった傷を負ったのはその時ですから」
 
 
「しかし!!」
 
 
「あの男は彼が馬にしがみ付いた所為で落馬し、大怪我を負った。
 尚且つ負傷した彼を助けるために尽力した所為で大幅に体力を削ったのだ」
 
 
「彼を見捨てて自軍に帰っておれば、助かったかも知れぬのに、な」
 
 
「そんな『かも知れない』程度で彼を咎人にするのですか!」
 
 
「「・・・・・・・・・」」
 
 
「あの男が命を賭して助けた命を、
 そしてこの国でも治療に当たった者達の必死の想いは、
 あなた方には届かないのですか!!!」
 
 
「どちらにせよ、彼の罪は重い」
 
 
「相手が彼を許しておろうが、我国は許さぬ。人一人の命を奪ったのだからな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「すみません、お母さん」
 
「やはり、そういう結果になったのですね」

「上は、こんなケース初めてだといって、二つに割れていたのですがね」

「あの子にはいつ?」

「今日、この帰りに。どうか気を落とさないでください」

「お心遣い有難う。でも、息子を失うと判って、気を落とさない母親はいないわ」

「では、失礼致します」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「君の刑が決まった。明日、裁判所へ出向くように、だってさ」
 
 
 正直、この事を言うのは気まずかった。
 それでも、それを察している筈の彼は、どこか、すっきりとした表情だった。
 
 
「ああ、何となく、そんな感じはしていた」
 
 
「何故、怒らないんだ?」
 
 
「多分、そうだろうな、とは思っていたから。覚悟は出来てるよ。
 ―――俺は、人を死に至らしめてしまったのだから」
 
 
 その言葉に胸が詰る。涙は見せてはならない。
 思考をかき混ぜて、深呼吸を繰り返す。嗚呼、何と無力な事か。
 
 
「俺は、頭の堅い頑固ジジィ達に腹が立ってたまらない。
 相手はお前を許していたのに、それは歴然としていたのに」
 
 
 色んな思いが、頭を混乱させる。ダメだ、もうここには・・・
 
 
「お前は自分を責めるなよ。全て覚悟していたから」
 
 
「・・・それじゃ」
 
 
「・・・なぁ!!」
 
 
 扉を開いて出て行こうとすれば呼び止められて。
 そっと後ろを振り返れば、どこか、少し迷いのある瞳がそこには在った。
 
 
「お前とは・・・あの男は・・・」
 
 
「俺が見届け人さ。皮肉なもんだな。その時に、時間が貰える」
 
 
 もう会えないのか、そう問い掛ける瞳に、安心しろと投げ返す。
 不本意だ。大事な友人をこんな形で失うなんて。
 許せない。何でこんな事になってしまったのか。
 ただ病室の扉を閉めて、その前で蹲る。
 
 
 
 見届ける時に、あいつには事実と真実を話してやろう。
 俺の気持ちの全てを教えてやろう。
 あいつはどんな表情をするだろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
『ああ、そうだったのか・・・』
 
 
 
 
『でもまぁ、俺が死ぬ事に変わりは無いがな』
 
 
 
 
 
 
 
 
 そう言った友人の死を、俺は忘れない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
+++++++++++++++++++++++++++
 
 
 
会話ばかりですみません。
この間の補足みたいなものです。
この国は、変わっていくのかな。どうなんだろう。
設定も何も考えずに書いちゃった話なので
いまいち良く判っていません。(阿呆)
 
 
 
 
痛い話ですみません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『許さない国』
 
 
 
 
 防衛線は始めに展開した時よりも後退している。国の城壁が、もう肉眼でも見えるようになってしまった。
 脅えたような瞳が多くなりながら、自分たちには、相手を傷つける術は無い。
 食料も、滞ってきている。戦争自体を望まない市民達が、クーデターでも起こして、食料が尽きてきているのだろうか。
 寒い、寒い・・・相手から受けた傷口が化膿している。もう、目も霞んできた。医療班はもうとっくに撤退していたっけ。
 ひっきりなしに矢が飛んでくる。それを拾い集めて、自分たちは火を起こす。
 自分たちはそれを武器として使ってはならないのだ。
 よろめく足で、地面に足をつけて踏ん張って、やっと、やっとで敵の前に立ち塞がる。
 薙ぎ倒されるかもしれない、それでも、護りたい。
 
 
 ドサッという音が聞こえた。嗚呼、また味方が倒れたのか、そう思った。
 でも違った。違ったんだ。
 必死で掴んだ馬の足。暴れた馬の背から落ちた男。落ちたショックで、どうも内臓をやられたらしい。
 起き上がりもせず、横になったまま血反吐を吐く男に駆け寄る。よろめくその足で。
 
 
「殺せ、どうせ俺はもう長くは無い」
 
 
 そう言って自らの剣を自分に渡す男の瞳は、濁っていたが、決意が現れていた。
 
 
「・・・・」
 
 
 柄を持って、その重たさに思わず落としてしまう。男は、その様に苦笑していた。
 もう一度、手にとって持ち直すが、手が震えて剣はカタカタと音を立てる。
 
 
「急所はココだ。外すなよ」
 
 
 喧騒の中でも確かにはっきりと聴き取れるその声は、どうしても死に行く者の声には聴こえなかった。
 
 
「お、俺には出来ない・・・」
 
 そう一言呟くと、男は観念したように一言、そうか・・・と言った。
 
 
「なら、俺を殺してくれる『誰か』を探すしかないな。お前、適当な、お前より出世欲のある奴をつれて来い」
 
 
 戦争なら、戦果を上げた者が上に行くのが当り前だと言わんばかりのその言い草に、自分は恐ろしくて震えてしまった。
 確かに、その男の言う通り、自分はこの男の最期を告げるのにはふさわしくないだろう。だが―――・・・
 
 
「・・・俺たちの国にはそんな奴は居ない」
 
 
 彼らは気づいていなかったのか。自分たちが何も仕掛けてこない事を。強固な壁を作り上げるだけで、何も武器を持っていないことを。
 国に帰れば刃物はある。狩をするための矢や銛もある。鉄工業が進んでいないわけではない。
 それでも―――――
 
 
「俺たちは人を殺せば、皆自決する。自ら命を絶ちたいと願う者は、ここには居ない」
 
 
 男は驚いて、細めていた目を見開いた。
 
 
「それが例え、戦争だとしてもか?」
 
 
「戦争だろうが、何だろうが、そんなのは関係無い。人を殺せば、自分も死ぬ。
 たった1人、それが過失だったとしてもだ。
 俺は自分の家族を悲しませたくない。だから、お前を手に掛ける事は出来ない。
 他の奴らも、皆同じだ。死にたいなら、同胞にやって貰え」
 
 
 
 喋っていると意識がまた朦朧としてきた。そのまま、重力に逆らわずに倒れこめば、やはりこの男が地面に落ちた時と同様、鈍い音がした。
 
 
 
「まぁ、お前がこのまま死んでしまったら、どっちにしろ俺はどうせ死ぬがな」
 
 
 
 その男の最期を見取ってやれないが、今はもう、意識を保っている事さえ困難だ。荒い息遣いが隣で聴こえる。
 自分のも頭の中でやけに反響して、煩い。脈打つ音も、息遣いも、煩い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「被告人に死刑を言い渡す」
 
 
 隣に寝ていたはずの男は息を引きとって、どうして自分は生きていたのだろう。
 自責の念が、胸を突き上げる。
 結局自分は家族を悲しませる事になったし、あの男の願いも叶えてやる事は出来なかった。
 
 首吊りの前、一緒にいた同胞がただ一つの真実を伝えてくれた。
『あの男は致命傷を負いながら、陣地まで運んでくれた。それで、お前の命は助かったんだ』
 ああ、そうか。だからなのか。自分もあの男を相手の陣地に送ってやればよかったのか。
 そうすれば少なくともこの自責の念は、無かっただろう。
 
 
 
「でもまぁ、どっちにしろ俺が死ぬ事に変わりは無いがな」
 
 
 相手に殺されるか、あのまま放置されて出血多量か、今目の前にある壇上の縄に首をかけるのか。
 最期は人を助けたかったかな・・・そんな風に思ってしまった。
 
 そして俺は深呼吸を一つして、台に足をかけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
+++++++++++++++++++++++++++
 
 
 
救われない話だな・・・
戦場で、人を殺した数だけ勲章なんておかしい。
戦争なんて、無くなってしまえば良いのに。
そんな事を考えながら書いてた。直でごめんなさい。
暗くてごめんなさい。あー、何でだろう。
 
 
 
 
まぁ、自殺も自分と言う人間を殺すという点では
人殺しなのかもしれない、なんて思いながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 今思えば、全てが夢だったんじゃないかと思うほど、君と過ごした日々は現実的ではなかったのかもしれない。
 
 
 突然君が、置手紙一つで姿を消した日は、快晴で、屋上からは遥か彼方に今の今まで争ってきた隣国の国境壁が見えそうだった。
 そこから馬を駆って半日で、隣国の首都につく。君は、どの道を行ったのだろう。
 君が、どの方面に行ったのかも判らないのに、僕はただ、果てに霞む国と国とを隔てた壁を見つめていた。
 あの男も一緒に消えたって事は、一緒に行ったって事なの?それとも、ただの偶然?
 確かに終わったよ。君達傭兵は必要なくなったよ。だけど・・・
 僕らは友達だったでしょ?何も言わないで出て行っちゃうなんて酷いよ。せめて、お別れの挨拶をさせて欲しかった。
 庭になったフィッグの実は甘い匂いを漂わせている。花梨ちゃんが居なくなった時支えてくれたのは君だった。何時だって辛い時は傍に居てくれたのに。
 急に居なくなったりしないでよ。心の整理がつかないよ。
 そう言えば君はきっと
「お別れを言った方が辛いだろ」
 そう言って、また僕に背を向けるのだろう。
 
 
 僕は君の事何も知らなかった。人伝に聞いた君は、あまりにも僕が知っている君とはかけ離れていて、信じられなかった。
 いつも優しく微笑んでくれて、いつも穏やかな表情をしていた君。どれだけの悲しみを今までの間に抱え込んできたのか、どれだけの苦しみを抱えてきたのか、君の過去について僕は一切知らない。
 知りたいと願った時もあったけれど、いつか君から話してくれると思っていたから。
 でもその前に君は去ってしまった。僕は僕の事で精一杯で、どれだけ君に支えられてきたのか区別がつかないくらい。君は確かにここにいて、確かに僕の傍らにいて、確かに僕を支えてくれていた。
 君が居たから僕はここまでこれたんだよ。
 
 
 ずっと、ずっと一緒に居られるとは思っては居ないけれど、もう少し一緒に居て、この国の建て直しを、一緒にしてくれるんだと思ってた。本心は、ずっと一緒に居たかった。
 ねぇ、君は僕と一緒に居て幸せだった?僕は君からたくさんのものを貰って、支えてもらって、言い表しようがないくらい君に感謝してるよ。それに、僕は君が居たから僕で在れたから。弱い弱い心を支えてきてくれたのは君だったから。
 君にどれだけの事を返せたのかな。凄く心配になるよ。
 
 
 
 僕はここに居るよ。いつ君がここに戻って来ても良いように。
 僕はここに居るよ。君がこの国を見て驚くくらいに立派な国にする。
 僕はここに居るよ。いつでも民の笑顔が耐えないこの国に。
 僕はここに居るよ。君を迎えて飽きるほどいい所を聞かせて困るほど美味しいものを食べさせて・・・
 君の居場所をここに作ってもらえるように。
 
 
 
 だから
 僕はここに居るよ、アキラ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
++++++++++++++++++++++++++++
 
 
 
短文。ジャンルとしては時のカルテですか。
アキラとサザが別れた後、サザの心境。
本編と関係無いなーと思いつつ、思いつきで書いて見ました。
んー、今一、文がまとまってないですね。嗚呼。
そろそろHP更新再開したいのですが
今ひとつ体調が優れぬゆえ・・・(とか言いつつもう何ヶ月だ)
クリスマスまでには更新します!!多分!!
 
 
日記はこうして気軽に書いてるんだけどねぇ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

chotto-ohanashi

2004年10月1日 ネタ帳
 
 
 
 
 
 
「なぁ?」
 そう言って差し出されたタイヤキの袋から一つだけ貰って頭から齧りつく。もう、西の空は真っ赤だ。
「なぁ?と言われても・・・」
 タイヤキのあんこが予想外に熱くて思わずあふあふしながら口篭もる。
 橋の下の公園、ブランコのきしむ音だけが風と一緒に聞こえる。
「私、初対面なんだけど」
 普通初対面の見ず知らずの女の子に学校であった嫌なこと話すか?と思いつつ、そう言い放てば、その男は事も無げに笑っていた。
「あんた俺と同い年位やろ?せやったら同じ経験しとんとちゃうかなぁ、思て」
 元来人見知りなどしない性格なのだろう、その男は自転車をおして帰る途中だった私を呼び止めて隣のブランコに座らせた。
 そして延々と彼の学校での出来事を語られたのだ。普通なら呼び止められた事にすら気づかないまま通り過ぎてしまうのに、今日は違った。
 何でだろう、と未だに続く彼の話をまともに聴きもせず横顔を見つめる。何であそこで立ち止まったりしたのだろう。
 今日は自転車で派手に衝突事故を起こした帰りだった。とは言っても自転車同士の。
 微妙に足首とか手首とか色々痛いから早く家に帰るつもりだったのに、何故かこの男に引き止められてしまった。
 折れてしまったブレーキが怖くて、結局ココまで歩いて帰ってきたのに、早く家に帰りたいのに、一体何で・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

吐き気

2004年6月28日 ネタ帳
 気持ち悪い・・・

 勢いよく立ち上がった所為で一瞬目眩がするが何とか立ち直り、担当教師に何も言わずバタバタと口を片手で押さえたままトイレへと駆け込む。
 幸い隣の教室だったからよかった物の、もう少し遅れていたら吐瀉物をぶちまけてた所だ。とりあえずギリギリセーフ。しかし未だ襲ってくる吐き気の波に洋式トイレでガバガバと景気よく吐いていると朝食がよく噛み砕いたにも拘らず、形と色を残したままで出てきている様が見えた。

 やっぱりまだ朝食は無理か・・・

 夕食まで出てきてない分だけマシかと思いつつ、出て来るのが胃液だけになった事を確認すると盛大なため息をつく。学校に着いて、しかも3限目過ぎた辺りで吐くってどうですか。大きな音を立てて流れる水に軽蔑の目を向けてみるが、それは自分自身の問題だ。もっと早く吐いてくれれば胃も負担が少なかったろうに。そんな事を思いつつも、うがいをして、取り敢えずは落ち着く。
 ストレスからくる胃弱体質。最近は調子が良くて吐かなかったと言うのに『朝食』を胃は受け付けないらしい。今まで反応がなかったのは、まだ食べ物が胃に入ったと認識されてなかったからなのかも知れない。
 そうなら話は別だ。胃の働きが鈍い所為でまともにご飯を食べられるのは夕飯位で、胃の精密検査を受けた時、まだ前夜食べた物が残っていた事がある。検査を受けたのは殆ど正午だったから、丸々半日以上掛けても食べた物を消化できないという事。
 その頃に比べたらまだ、朝食が出てきた位で驚いてはいけない。2、3時間形を留めているなんて私の胃にとってはそれこそ『朝飯前』なのだ。
 しかし何故今頃になって吐いてしまったのか、それがどうにも解せない。しかし派手に教室を飛び出してきてしまった手前教室に戻るのもなんだろう、という気がしてならない。しかも隣だから嘔吐の音も聞こえている。授業に集中しててくれ、受験生諸君。
 教室の手前で担当教師を呼び、保健室に直行する旨を伝える。自分でも確認したが、壮絶な顔色をしている私に気遣いの言葉と付き添いの必要性を訊いたが、一人で大丈夫だと返す。いつもこうなのだ。吐く為のエネルギー消費量は半端じゃない。そしてその間殆ど吐きっ放しな訳だから酸素不足になる。
 酸欠状態の顔と、エネルギー源が去った後でげっそりとしてしまった顔とは、精神的には元気なので似ても似つかない物だろう。この時間にこれが初めてなのもまずい。午後の授業ならば、昼に食べた物を吐く事が多々あったから。たまに慣れない事=朝食を食べたりするからこうなるんだ。
 大抵午後の先生方は、私がトイレに直行した時点で、また保健室行きだな、と思ってくれる。だから私も気兼ねなくフラフラと1人で行くのだが。さすがに初体験の相手にはちゃんとその事を言っておかないとまずいと思い1人呼び出した訳だが、心配性な性格なのか一向に保健室へと向かわせてくれない。
「私の事はいつもの事ですから。先生は授業に戻ってください」
 そう言ってみれば、先生も渋々納得したようで。途中また吐き気の波が襲ってくるが必死で抑える。頼りなげに歩いていれば、午後担当教師がその時間は空いているのか途中で、大丈夫か?と声を掛けてくる。それに手をヒラヒラと振りながら苦笑を返せば、相手も苦笑する。
 そう、いつもの事だから。心配ないんだ。
「センセー?居ます??」
 保健室のドアを音を立てて開ける。すべりが悪いよここの戸。ゆっくりと静かに戸を閉めてソファに腰掛ける。
「あら、珍しいのね、こんな時間に?」
「最近調子良かったから調子に乗って朝食食べてみたんです。そしたら・・・」
 吐くマネをしながら自分の体の事ながら呆れ返る。先生もそれに苦笑するといつもの保健室利用カードを差し出す。手馴れた手つきで、そこに記入し、熱も測って記入する。37.5℃。まぁ、微熱といえば微熱か。36度台前半が平熱だから。
 そんな事を考えつつ、先生にそれを渡すと、もう一度盛大なため息をつく。
「そんなんじゃ体が持たないわよ?病院に行って点滴してもらった方が良いんじゃない?」
「病院嫌いなんです。点滴はして貰った方が良いんだろうけど。とりあえず夕飯でできるだけ栄養素とって、それからサプリメント飲むしか無いですかね。とりあえず今の所錠剤は吐いてないんで。でもサプリメントでも飲むと腹痛くなるんですよね」
 胃が受け付けない。でも精密検査をした所で異常は見つけられない。胃の働きが鈍っているとしか内科では診断されない。メンタル面での治療は素直に受けているものの、いまいち効果が無い。休みの日にブランチとして胃に入れた時は、収まったのが不思議だった。
 お腹は空く。けれど食べるのが怖い。寧ろ他の人に食べてもらった方が料理も、食材も喜ぶ気がする。後々外に出されて栄養分も何もそのまま水に流されるよりは。自嘲気味に笑って見せると、先生はそんな風に思わない方が良いと優しく言った。
「横になる?それともお腹温めとく?」
「あー、横になるのは喘息併発してるんで止めときます。毛布在ったらお腹に掛けときたいんですけど」
 保健室の本棚から本をとりながら先生と会話する。本を読む位の体力はある。ここに来る度に色々な本を家捜しする。そろそろ部屋にある全ての本を読みつくした頃見かねて先生は長編の推理小説やらホラーやらファンタジーやらエッセイ集やら、たくさんの本を保健室においておくようになった。
 ソファに身を預けて、足を上げたままそこに毛布を掛けるのがスタイル。授業に出ていたからといって、これといって問題は無いのだけれど、受験シーズンのこの時期、周りに迷惑掛ける事だけはしたくない。
 暫く読んでると、先生が紅茶を淹れてくれた。先生が誰か海外出張に行った時のお土産でパッケージには怪しげな文字が並んでいるけれど、香りはそんなに悪くない。何も入れないままそのまま 一口含んでみると、ちょっと柑橘系の味のする紅茶だった。
 砂糖をいれて、スプーンで混ぜる。いつものように紅茶を飲み干して、また本に戻る。その内に睡魔が襲ってきて・・・だけどその眠気も一気に次の瞬間掻き消された。

 傍にあったティッシュの箱を引き寄せて乱暴に何枚か取り出すのがやっとだった。それを口に当てるか当てないかの時に波は過ぎ去ったと思っていたが胃から出てくる、酸っぱくて苦い味覚に咽返る。胃酸を含む液ではなく、そこには鉄の味がする物も混ざっていた。先生も状況の変化を察したのか、振り返り、少し青ざめた表情を見せた。
「センセー・・・苦しい・・・」
 いつもなら言わない弱音を先生と目があった瞬間に口にする。嘔吐と吐血を繰り返しながら掠れた小さな声で紡がれた言葉は先生に届いたのか疑問だったけれど、その言葉と同時に我に返った様子で、何処かへ電話をしている姿が眼に映った。

 数時間後、私は病院のベッドの上でうっすらと目を覚ました。気を失っていたようで朦朧とする意識の中で色んな物に繋がれているのを感じた。
 口には酸素補給の為のマスクと、腕には栄養補給の為の点滴と。胸には心電図まで取り付けられていた。
 亡くなる間際の祖父の様だ。祖父はこれ以上の物に繋がれていたけれど。麻酔薬でも点滴に入っているのか無性に眠い。このまま永遠に横たわっているのも悪くないかも知れないそう思って私は瞳を閉じた。
 
 
 
なんだろう。この違和感は。
何なんだろう。この圧倒的な威圧感は。
 
 
 
何時何処で気を失ったかなんて覚えていない。
未だはっきりとしない思考を頭を振って何とかしてみる。
すると何と言うことだろう、それまで切れ切れだった記憶の断片が、一瞬筋が通ったように思えた。
だがあくまでもそれは、思えた、というレベルの話で。
何処と言って変りばえのしない部屋を見渡す。
いつも見慣れた光景。そう、いつだって自分はココに帰ってきていた。
 
 
何処か懐かしい気がするのは、随分長い間この部屋に帰ってこなかった所為だろう。
記憶は大分回復した。
そう、僕の名前はアキラ。
時空の歪みを統べる者。
それ以外の誰でもない。僕は僕だ。
 
 
それでも何故か何処か違和感があって、警鐘を止める事が出来なかった。
ココは、自分の部屋だ。
だけど何故ココが自分の部屋だと知っているのだろう。
僕は、遊撃手であり、こんな小奇麗な部屋など似合わないと言うのに。
ココにはあの人の面影など無いと言うのに。
 
 
微かにドアの外、廊下だろうか?、から足音が聞こえる。
それは今自分が居るこの部屋に向って来ていると確信するには十分なもので。
規則正しい足音が、ふと、ドアの前で止まった。
 
 
ドアがゆっくりと開かれる。
 
 
 
 
 
 
「やぁ、お目覚めかい?エイラ。」
 
 
 
 
 
 
そこには何処か見覚えはあるものの記憶に無い顔をした少年がたっていた。
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
えっと、久々ネタ日記です。小説の冒頭。思いつきのままに。
ってか短い・・・ヤだわぁ、もう。
アキラは前に日記に登場させたアキラと同一人物です。
ってかシリーズ物になってます。アシカラズ。
色々とネタばれの多い作品になる、と思われます。
アキラ自身忘れていたかこのこととか、色々。
ってーかそろそろアキラの設定年齢決めなきゃ。

 
 
 
 
 
 
 
=======================

「香君。」
 被害者側が大人しく『調書』の為に受け答えしていると、ノックも無く扉を開け、被害者を呼ぶ声がする。一緒にいた担当の刑事はその人物の出現にあたふたしている。
「どうも、どうはりましたん?警部さん?」
「どうもこうも無い。全く君という人は・・・。」
 長くなりそうだな、と心の中で香はそう思うと、調書も大体終わったしと、めんどくさそうに腰を上げる。
「長くなるんやったら外で聞きますけど?刑事はん、調書はもうええでしょ?」
 香のその言葉に、担当していた刑事も首を縦に振り『どうぞ』と言葉を溢した。それを聞いた香は警部の方を軽くパンパンと叩くと外へと促す。普通『警察官』のしかも『警部』にこんな軽々しい事ができるはずが無いのだが、香の場合は少し事情が違った。香はココでは『顔馴染』なのだ。休憩室の方へと足を運び、自動販売機の前にあるベンチに腰を下ろすと、香の考えが判っているのか、警部は小銭をポケットから取り出すと自動販売機の前に立ち、数ある中から『ホットココア』を選び、無言で香に渡す。そして自分も『ホットコーヒー』を購入すると、ヤレヤレといった様子で香の隣りに腰を下ろす。
「そんなに僕と話すん嫌でしたら、僕はどっちでもええですけど?」
 ホットココアを受け取り、口元で息を吹きかけ、少し覚ましてから一口含み、舌を熱さでしたを火傷して香は溜め息をついた。警部は仏頂面のまま、コーヒーを啜っていた。そして暫らく沈黙が続き、警部が口を開いた。
「何故君はワザと事件に巻き込まれるようなマネをするんだ。たまたまそこに居た者がこっちに連絡をくれて迎えに行けたからよかったものの・・・。」
 その言葉に、ご尤もです、と溜め息をつきながらそれでも、と香は言葉を紡ぐ。
「それでも、他の方が狙われてるんか、僕が狙われてるんかハッキリさせときたかったんです。僕やったらまだ力使えば済むことで、ええけど、他の方やったら、引き返すつもりやったんです。まぁ、どっちにしろ巻き込まれる事に変わりは無いですけどね。」
 苦笑しながら言う香に警部はこれ以上に無いと言う程の特大の溜め息をつく。香はその仕草にまた苦笑した。
「心配してくださるんは嬉しいです。けど、僕は僕の仕事遣るだけですから。そないに心配せんでも僕は『強い』ですから。」
「あぁ、そうだったな・・・。処で、相手さんの取り調べがまだ終わっとらんのだが、来るか?」
 普通被害者である香にそんな事を訊く訳が無いのだが、香は二つ返事で応えると、丁度良い温度に下がったホットココアを一気に飲み干す。紙コップで出来たそれをゴミ箱に投げ入れると、立ち上がって警部の後をついて行った。
 
 取調室には沈黙が続いていた。男が何も喋らないのだ。明らかに『変質者』の格好をしている為、その事は仕方が無いと思っているのか、そこの部分はすんなりと容疑を認めたが、香に対する所謂『猥褻行為』については否認状態。担当の刑事である坂下は、さっさとこの取調べを終わらせたいと願っていたが、証拠が無いのでは、この犯人の口を割らせる他は無いと思っていたので、半ば諦め状態だった。そこに、ノック音がやたらと大きく響いた。
「香さん?」
 そこに現れたのは紛れもなく『被害者』である香の姿であった。一見容姿は中性的とでも言うのか、一瞬の判断では性別がどちらかなのか見分けがつかない。その香が取調室に入ってきて、坂下の隣りにあったパイプ椅子へと腰を下ろす。ドアを閉める寸前、香の後ろに警部の姿が見えたため、警部が連れて来た本人である事をすぐに坂下は悟った。
「坂下さん、ちょっと邪魔するで。あんさん、いい加減口割ったらどうなんや?」
 香は椅子に座って一息つくと、坂下に明るい声を掛けてから、凛とした声で犯人と対峙する。被害者が加害者と面と向かって話をするなんて普通の神経では出来ない芸当だ。それをいとも簡単に、この17歳というまだ20にも満たない子供がやってのける。坂下は香の強い精神に、何時もながら感心する。
「被害者の僕が出て来て、なんもおもわへんのん?」
 犯人は多少の焦りの色を見せるものの、『被害者』の証言だけでは罪には問われない事を知ってか知らずか、だんまりを決め込んでいる。
「言っとくけど、証拠はあんねんで。」
 冷ややかにそう言い放った香の瞳には、優しさなど無かった。『そんなの嘘だ!目撃者も居るわけない!!』とでも言いたげな顔をしている犯人の言葉を制し、ポケットをごそごそと探る。そしてある物を取り出した。
「・・・れ、レコーダー?」
 男はそれを見て愕然とした。
「せや、あんさんが僕に声掛けて来た時からの会話が全部入っとる。僕はあんさんの行動も全てお見通しやったっちゅう訳。万が一に備えて、これいじくっとったん、あんさん気付かんかったんが運の尽きやな。」
 『悪い事はするモンや無いなぁ?』と香は笑った。ガクッと犯人は肩を落とし、容疑を認め、その後の調書もスムーズに行われた。香は部屋の外へ出ると、後ろ手でドアを静かに閉めた。目の前には警部の姿があった。その姿に香は苦笑した。
「待ってて下さりはったん?僕は僕の仕事をしただけですよって。」
「・・・違う。待っていたのはお前の為じゃなく仕事の為だ。報告書を提出しておけ。」
「えぇっ?!今回僕被害者なんですけど??しかも調書はとったんやし??」
 警部のその言葉に些かオーバーなリアクションを返して見せるが、警部の表情は変わらない。その顔に溜め息をつくと、また苦笑した。
「今回の君の行動は、警察官としての行動か、それとも一般人としての行動か、どっちだ?」
「僕は警察官である前に1人の人間ですさかい、今日は『被害者』っちゅーことで勘弁してくれはりませんか?」
 苦笑交じりにそう言うと、警部は仕方が無いなといった様に肩を落とすと、香の容姿をより中性的にしているショートカットの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「処で、今回の足の錘は何キロだったんだ?」
「・・・両足で30キロ。ちょっと重すぎたのか犯人連行するのに時間かかってしまいました。すんません。」
 突然のその問いに少々唖然としながらも、バレていたのなら仕方が無いと、頬を掻きながらそう応えた。
「能力のコントロールができるように地道に鍛錬するのもいいが、いざと言う時故障しました、じゃ示しが付かんぞ?それに携帯電話はいつも携帯しとらんと意味が無いだろう?判っているのかその辺り。」
 その言葉に香は大きな溜め息を一つつくと、頭を項垂れて、すみません、としかいえなかった。
 
 
 
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ネタ帳。

2003年10月7日 ネタ帳
 
 
「アキラ殿。」
 夜中、巡回の兵ももう既に休んだであろうが未だ眠りにつけずに居たアキラの部屋にコンコンと言う扉をノックする音が響いた。訪問者は扉の前で、まだ起きていらっしゃいますか、と問うとアキラの応えを待った。アキラは昼間の内は花梨とサザナミの2人に監視されてベッドから抜け出せずに居た。その2人が部屋に戻った今でもまだベッドに縛り付けられたように動けずに居るのはサザナミと花梨が帰る前に、安静にしてろと釘を刺して行った所為なのだろう。厚い扉の向こうに居る声の主をその声から確認すると、アキラはベッドから抜け出しそれの崩れを直し、窓辺にある椅子に移動してからゆっくりと応えた。
「あぁ、クラウスさんですか、良いですよ入ってきても。」
 眼下にある街の光も消え、あるのは月の光だけだった。それを見ながらアキラがそう応えると、扉が静かにゆっくりと開き、正軍師のクラウスがおずおずと部屋に入ってきた。
「もっと堂々としてらしたら良いのに。こんな夜更けに何用ですか?まさかこんな時間に見舞いって訳でもないでしょうし。」
「いえ、なかなか時間が取れませんで。昼間医局に行きましたらもう既に貴殿は部屋に戻られていると言うし。それにあの御2方が居ましたし。」
 呆れながら言ったその言葉に、正直に素直に応えるクラウスがこういっては何だが、少し可愛く思えたのかアキラは笑って見せた。尤もこの月の光だけの暗闇ではその笑顔がクラウスに見えたかどうかは疑問だが。クラウスを椅子へ座るように促し、自分は机にあるランプの光を灯しに移動し、再びクラウスの正面に戻ってそこにある椅子に腰を下ろす。そこに居たのは昼間のアキラではなかった。
「全く、私が何の為に男のフリをしていると思ってるんですか?クラウスさん。」
 座って一息ついた処でまだ俯いているクラウスに対し、呆れたようにアキラは外にある月を眺めながら言葉を発する。今アキラの目の前に居るのは戦場で見せたクラウスではなく、どこかまだ子供っぽさの残る青年だった。
「判っています。しかし、貴女があのような事になるとは考えていませんでしたので・・・。私の見込み違いでした。申し訳ありません・・・。」
クラウスは顔を上げ重たい口を開くと寂しそうにそう告げた。
「私はそこまで承知の上であの策を行ったのですから。身を滅ぼすのも助かるのも我が技量次第だと考えていましたよ。」
 冷たい、冷ややかな口調でアキラは言葉を続ける。
「自分が男だと偽っているのも、どんなに困難な策でも先陣切って私が行えるようにです。今まで順調だったじゃないですか。」
「確かにそうです。しかし、貴女を失ってしまってはこの軍の士気も落ちてしまいます。サザナミ殿だって悲しみます。それに私だって・・・。」
 言葉を濁すクラウスに対し、アキラはさっきとは違うにこやかな、和やかな声を発した。
「クラウスさん、大丈夫ですよ。貴方は立派な軍師です。それにサザナミも例え私が居なくなったとしても、それをバネにして越えて行けるだけの力がありますよ。何も心配する事はない。」
 しかし!と遮るクラウスの言葉を制し、アキラは冷静な声で言葉を続ける。
「まだ貴方は私の言っている事が理解っていないようだ。先の戦いを引きずらないで下さい、ましてや何年も前の戦争の事など。今あるのは正軍師としての貴殿と、軍師補佐としての僕です。立場を弁えて下さい。貴殿は僕よりも上なのです。僕は捨て駒になっても構いませんから。」
 そこにはまた静かに微笑んでいる元のアキラが戻っていた。クラウスは暫らく沈黙した後、椅子から腰を上げた。
「夜更けに失礼した。しかしアキラ殿、私は先の戦争の事を忘れられません。私の立場は貴殿より下です。」
 最初は威厳に満ちた正軍師の顔で、そして最後はまだ未熟なクラウスと言う青年の顔になり静かに笑うと、扉に歩を進め静かに開いた。アキラはまた窓の外の月を眺めていたが、クラウスがそこで立ち止まったままで居るのは気配で感じ取れた。
「貴女は恋愛など戦いには邪魔なだけだと仰いますが、私は前の眩しかった貴女が忘れられません。守るべき者があればそれだけ人は強くなれるのではないのですか?」
 クラウスは少し沈黙し、アキラの応えを待ったがアキラは何も言わなかった。暫らくしてクラウスは失礼しましたと扉を閉め、部屋から去っていった。机にあるランプを消しに移動し、また椅子に腰掛け窓の外を眺めると月明かりがアキラの頬を伝う雫を明るく照らした。それに気付いたアキラは自嘲気味に考えた。
(あれから何年も経っているのに未だに忘れられない。引きずっているのはこっちじゃないか。)
 アキラの嗚咽の音だけが夜更けの部屋の中に響いていた。
 
 
 
 

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