ささくれ
波打つ
暴れる
放っておくのがいいんだ
気になっても触っては駄目なんだ
無理に引っ張っては
余計に痛くなる
触れるなら慎重に
触れるなら保湿して
無理に言葉にしようとして
無理に誰かに伝えなきゃって思って
ひっぱって
ねじ切って
地が滲む
大丈夫なんだよ
つらいんだ
つらいけれど
これをはっきりとさせちゃ
だめなんだ
しっかりと見つめてしまっては
絶望しか残さない
解決策なんてないことが
はっきりとわかってしまう
自分が変わるしかないのなら
もう放っておいてください
そっとしておいてください
心のささくれが
悪化する前に
離れてください
何かに興味を持ったとき
やりたいという気持ちよりも
できるかな どこでやってるかな
そんなことばかり頭を巡る
興味を持っても
できる場所 教えてくれる人
月謝 周囲の協力
いっぱいいっぱいハードルがある
その内疲れてきて
諦めが強くなる
興味をもつことすら
無意味に感じて
やってみたい
どんなことだろう
触れてみたい
そんなワクワクする好奇心を
物事を楽しむ力を
育てられなかった
捨てるしかなかった
どんな環境でも工夫してできる
それはそうだろう
それでは一流にはなれないけど
画面の向こうは絵空事
出会い 環境 そして努力
全ての歯車が噛み合って
あのキラキラとした世界が成り立つ
人生遅いなんてことはない?
やりたいことがあるなら始めたら?
興味の持ち方すら忘れた僕は
ただ遠い世界だと納得することで
自分を守ってきたんだ
つらい練習も ただただ楽しくて
疲れて帰ってくるのも ただただ嬉しくて
そんな風に物事を極められたなら
遠い場所までたどりつけるのだろう
こどもの好奇心を潰した罪は重い
可能性に投資することを学ばせない
価値のないことだと教えるのは
お金がないから?
どうして
外野がとやかくいうのだろう
頑張ったのは本人なのに
それを支えたわけでもないのに
「なにやってんだ」
どうして
誰に何を謝っているのだろう
これまでどれだけの練習を
どれだけの努力を
重ねてきたかも知らない人間に
応援がどれだけの力があるのか
負ければ容易く掌を返す人間の
これまでの時間と忍耐を
積み重ねてきた経験と努力を
出し切ったならいい
なにもいうことはない
自分自身に納得しているのなら
自分が
納得できる力が出し切れなかったり
結果がでないことを悔しがるのは仕方ない
次へと繋げる大事なステップ
支えてきた人たちが
本人を想って共に悔しがり
共に涙をながすのはいい
それはきっと力になる
それでも
外野が
彼らの努力を見てもこなかった人間が
結果だけみて本人を責めるのは違う
力を尽くしてくれた人を
見ることしかできないのなら
その健闘を称え拍手を贈ろう
いままでの時間と
いままでの努力に
そしてこれからの未来のために
そうしないと心で負けそうだ
「そのままで」「ハーブティ」「揺れる」
2016年8月10日 ネタ帳 コメント (2)ここはどこだろうか。
気が付くとあなたは真白な四角い部屋の中にいるだろう。
部屋の中を見渡しても、特に目ぼしいものはない。
きょろきょろと左右に首を振っても、そこにあるのは真っ白な空間だけだ。
床に触れるとひんやりと冷たさを感じる材質であると分かる。
叩いてみれば硬質な音がするだろう。
部屋の端まで15歩程度といったところだろうか。
寝間着で眠っていたはずなのに、普通に外に出かけられる姿になっている。
あなたは唐突に気が付くだろう。これは夢だと。
耳を欹てれば、微かに空調が効いている音がする。
暑さ寒さも感じない、快適な温度に保たれている。
壁伝いに移動をしてみるが、扉はない。
ふと見上げれば、天井にはライトらしきものはない。
それなのにもかかわらず、適度な光量を保っている。
なんの技術かは知らないが、そのことに気づくだろう。
壁をよくよく観察すると、足元近くに小さな凹みがあることに気が付いた。
近寄ってよく見てみれば、それは日本語ではないことがわかる。
"Your way to go home is inside the ceiling."
あなたは乏しい英語の知識を振り絞り、その意味を理解するだろう。
だがしかし、改めて頭上を見上げても、なにも見つからない。
他に何かないかと探すと、先程凹みがあった場所と丁度反対側の壁にまたもうひとつ凹みがあった。
"All you need to do is push the right button with your foot."
またも乏しい英語力で読み上げると、己の足を見つめるだろう。
壁ではなく床を丹念に見てみると、視線をほぼ床と水平にすることで色が変わっている箇所があることに気が付くだろう。
あなたはその場所まで行くと、その場所を勢いよく足で踏みつけた。
するとどこからかガションという音がしたかと思うと、天井から梯子が降りてくる。
あなたはそれに掴ると、そろそろと上に上がり始める。
登り切った先で見たものは、それまでの白い箱のような部屋ではなかった。
どこかで見たような、それとも違うような植物が植えてある。
それをガラス越しに室内から見ている。
植物が植えられた空間はこちら側よりも光量が多く、自然光を髣髴とさせる。
窓辺には白いカーテンが風に揺れている。
これまで空気の流れを感じていなかったあなたは意外に思うだろう。
先程まで誰かここにいたのだろうか。窓辺にあるテーブルには真っ白なティーポットがあり、カップには湯気が立っている。
近づいて中を確認してみると、それはなんらかのハーブで淹れられた茶であることがわかるだろう。
香りで苦味が強いことがわかる。
テーブルの上には小さな白い紙にこう書かれていた。
"Please feel free to drink as it is"
あなたはそれを見てどうするか考えるでしょう。
近くには白濁色の液体、白い粒の固体、そしてスプーンが添えられています。
スプーンはどうやら銀でできているということがあなたには理解できるでしょう。
銀のスプーンを入れてハーブティーの中をかき混ぜてみると、特に変化は見られないようです。
あなたはカップを手に取り、口を付けます。
何も要れず、何も加えずそのままの状態で液体を口に含みます。
それは予想通りとても苦い味がするでしょう。
遠ざかる意識の中、あなたは何かの声を聴きます。
(最後にはそうするしかないんだよ)
あなたはいつものベッドの上で目が覚めるでしょう。
先程までの体験は、なぜか普通の夢とは違う感じがします。
それでもその違和感が何なのか、よくわからないまま仕事に行く準備をするでしょう。
喉の奥に、苦味を抱えたまま。
===============
お題:「そのままで」「ハーブティ」「揺れる」
お題提供:たんぽぽ様
TRPG風に仕上げてみました。
自分を好きになるってどうやるの
自分を信じるってどうやるの
僕は僕が嫌いだよ
頑張っても頑張っても
いつだって僕が大嫌いなんだ
ひとつ壁を乗り越えても
ひとつ困難に立ち向かっても
頑張ったら自分を好きになれるかな
好きだと思えるところができるかな
でもね
僕はいつまでたっても
僕を嫌いなままなんだ
いまの自分を好きになれない
ならなんのために頑張るの?
君も僕が嫌いでしょう?
だから僕に変われというのでしょう?
何度も何度も躓いて
何度も何度も頑張って
それでも君はまだ頑張れというでしょう?
こうやったらいい
ああやったらいい
いまの僕が嫌いだから
いまの僕を嫌いだから
変わればいいよ
頑張っていればいいよ
そうしていつだって君は
僕に変わることを強要する
いまの僕が嫌いだから
いまの僕を嫌いだから
僕は今の僕が嫌いで
君も今の僕が嫌いで
同じなんだ だから変われという
いつまで頑張ればいいの
いつになったら好きになれるの
いつまで いつまで
いつになったらもう十分だよって
歩みを止めていいよって
そのままで大好きだよって
僕は僕にいえるの
そのままで十分大好きだよって
君は僕にいってくれるの
ねえどうして僕は
どうして どうして
ねえどうして君は
頬を伝うものがなんなのか
認識するよりももっとはやく
喉が痛くなるほどに大きな声を
力の限り出し切って
欲しいものがなんなのか
それはよくわかっていないけれど
この場所じゃないことは
痛いほどにわかっているんだ
心が身体が拒絶をする
鼓膜が網膜が全てを遮断する
耳石が狂ったように暴れまわり
壊れた涙腺から止め処なく 止め処なく
抱きしめても 優しい言葉をかけても
いまはすべて無意味なんだ
出てくるはずの涙が声が いまはもう
泣き叫びたくとも涙が声が いまはもう
肩に力が入る期間が長すぎた
いま頑張ればいつかは楽になるって
そんな風に思っていたけれど
いつ楽になれるの? いつ いつ
凝り固まった筋肉から 頭が痛くなって
強く持続する緊張状態でお腹は痛くなって
まだ食べれてるって誤魔化してみるけれど
本当はもう わかっているのに
助けてもらった 支えてもらった
だから頑張らなくちゃって頑張って
闘わなくちゃ 勝ち取らなくちゃ
後に続く誰かのためにって
それでも それでも
自分の心が 自分の身体が
悲鳴を上げて 精一杯出してるSOS
無視し続けるのは 誤魔化し続けるのは
ねえ いったい 誰のためなの
何もいえなかった子が 精一杯
やっとの思いで口にしたタスケテを
また見ないフリをするの? まだいけるっていうの?
何度同じ過ちを繰り返すの?
また私は私を助けられないの?
どうしてまた私は私を殺さなくちゃならないの?
ねえ それはいったい 誰のためなの
ねえ いったい 誰のための
ねえ怒らないでよ
あなたの怒りの感情は
僕を委縮させる
ねえ大声出さないでよ
あなたの快楽は
僕にとって恐怖だから
それでなにが解決するの
それでなにを求めているの
うまくいかないことを
辛抱強く考えもしないで
それでなにが解決するの
それでだれが倖せになるの
誰かを貶める発言は
そのまま自分に還ってくると知っているの
怖いよ 怖いよ
悪い言葉を聞く度に
怖いよ 怖いよ
自分もどこかでいわれているんじゃないかって
瞳を閉じてひと呼吸
笑いものにされて 話しのタネに馬鹿にされ
想像するだけで身が強張る
その声を聴くだけで吐き気がする
ぽつりぽつりと雨が降る
ぽつりぽつりと胸の中
お天気雨とは裏腹に
曇ったまんま太陽は久しく見ていない
首と肩の力が抜けずに
またひとつ大きくため息をついて
大きく息を吸い込めるように
酸素が行き渡るように
誇れるものが何もなくて
得意かと訊かれても首を傾げて
自信のないものばかり褒められて
自分の価値を見失う
好きなものにはいつまで経っても自信がないし
得意なことでも上には上がいるって知ってるから自尊心は上がらない
自信ってどうやってもつんですか
自身ってどうやってもつんですか
褒められても 貶されても
自分の所在がわからない
ここにいていいという絶対的な安心感
どこにあるんだろう
私の存在はここにありますか
僕の存在はどこにありますか
何のために どうして
ここに在るのですか
本当にここに在るのですか
その証明はどこに在りますか
ふわふわと属していない
ふらふらといつでも夢見心地
薄い膜が隔てる 現と中
何処にも属していない不安が
誰にも認められるはずがないという不安が
ここにいてはダメだと騒ぎ立て
どうしようもなくあちらの世界を
僕は知っているよ
君が諦めていないこと
僕は知っているよ
君が勇気ある人だってこと
つらくて怖くて泣きたくて
哀しくて不安で寂しくて
震えながらも前に進もうとしている
思っているだけでも進んでるんだよ
僕は知っているよ
ずっとずっと見てきたから
僕は知っているよ
君が笑える未来があるってこと
君がどんなに自分を嫌いでも
君がどんなに自分に愛想つかしても
僕は知っているよ
君がどんなにすばらしいか
可能性の翼はまだ折れていない
君が信じられなくても僕は知っている
何を信じればいいんだろう
2016年4月14日 ポエムねえ教えて
誰を信じればいいの
ねえ答えて
何を信じればいいの
信じて頼って守って
それも覆される言の葉を
信じて意味づけて貫いて
いっていないといわれる哀しさを
憤りを 所在のなさを 虚しさを
ねえ教えて
誰を信じればいいの
ねえ答えて
何を信じればいいの
嘘吐き できない約束なら口にしないで
守ろうとする姿勢もないくせに
口から出まかせ 重ねられる偽り
ねえ教えて
誰を信じればいいの
ねえ答えて
あなたの何を信じればいいの
そんな嘘つきの集団
柔らかな陽射しの中を
のんびりゆったりと歩いて行こう
木漏れ日が揺れる坂道を
走り出さないようにブレーキかけながら
春の匂いのする風が
頬を撫でて前髪を揺らす
口笛で奏でたメロディーが
音符になって色鮮やかに踊りだす
生命の歓びを謳歌した
この小さな虫さえも知っている
生きていく術を 生きる意味を
どうして手探り闇の中
多種多様で便利なようで
何も得られない不便な世界
本当の倖せはそこにあると
諦めるにはまだはやい
ただありのままに息をして
飾らずに 偽らずに
まっすぐこの先をみつめて
怖がるのだって僕なんだ
泣き叫ぶのだって君なんだ
当り前の日常が 在ることが特別だと
頭でっかちな知識では 本当の倖せなんてやってこない
足掻いてもがいてそして手に入れる
泥だらけで傷だらけでも
自分で勝ち取った倖せはそこにある
与えられたものよりもずっとずっと
もっともっと世界を楽しんでいい
もっともっと生を楽しんでいい
小さく纏まるにはまだ早い
己の手で答えを掴め
ひとには意味のないことも
君なら意味を見出せるだろう
一生懸命
やることはダメなのですか
一生懸命
頑張っちゃだめなのですか
そんなんじゃ続かんよ
そんなんじゃダメになるよ
ゆっくりいかんといけんよ
セーブせな
要らない 要らない
僕にはブレーキ要らない
特に長生きしたいわけじゃない
特にずるしていきたいわけじゃない
護るものなんてない
あるとすればこの精神のみ
一生懸命 力いっぱい
それで力尽きるなら仕方ない
最期の時に
精一杯頑張ったって
そうやって微笑むことができるなら
それで充分だから
お願いだから否定しないで
お願いだからお願いだから
遊びも仕事もめいいっぱい
楽しいと思えることをたくさんしたい
そのためには頑張ってお仕事しなくちゃ
だから だから だから
楽しめるほどの給金が欲しい
消費することは経済活動だ
働くことだけじゃない
経済を回す
そのために働いている
楽しいことをめいいっぱいして
大好きだって叫ぶために
そのために僕は
力いっぱい働きたい
楽しいものに対して
好きなものに対して
胸を張って生きられるように
いい加減な人間にはなりたくない
ガタゴトガタゴト
カチコチカチコチ
廻る歯車
カタコトカタコト
コチコチカチカチ
噛みあう歯車
正確に 緻密に
廻り続ける歯車
歪で個を主張し
どこかずれたまま
どこか合わないまま
廻り続ける社会の歯車
上手く噛みあわず
互いの凹凸を無視して
無理矢理型にはめ込もうとする
生きるためにと無茶をする
純情で 真直ぐで
噛みあわない歯車
メンテナンスが必要だ
この場所に合わない歯車は
無理にこの場所にいる必要はない
メンテナンスが必要だ
この歯車にだって
合う場所はどこかにあるはずだ
見渡して 見廻して
カチッと合う音がする
周囲の凹凸 自分の凹凸
上手く噛みあって廻る場所
削って 鉋して 研いで
いつかつるつるになってしまったら
周囲の凹凸から外れてしまう
周囲の凹凸と噛みあわない
廻らなくなる 社会の歯車
ひとつでも欠けると 動かない
それなのに
ああ それなのに
代わりはいるよと斬り捨てて
代わりはいるよと脅かして
凸も凹も無くなるように
無茶な削り方をする
メンテナンスが必要です
メンテナンスが必要です
ひとつひとつの歯車が
適材適所に置かれていますか
メンテナンスが必要です
メンテナンスが必要です
エラー音は今日もまた
けたたましく鳴り続ける
信じようとして おかしいなと思っても信じようとして
大丈夫だよって 世界はそんなに酷くないよって
信じようとして 違和感も気付かないフリをして
あぁ ダメだ
やっぱり ダメだ
何を考えているんだろうか
視えていたのに 知っていたのに
気づかないフリをして 誤魔化して
突きつけられたものは 心臓に届いているのに
勝手に信じて 勝手に裏切られて
馬鹿なんだろうか 馬鹿なんだろう
相手は所詮 こちらを人間とは認識していない
それは人権侵害ではないですか
支え合える社会を目指してはいないのですか
そんなことではいつか遅かれ早かれ壊れてしまうだろう
自分さえよければいい そんな考えでは
静けさがしんしんと降り積もるような、そんな夜明け前。
闇夜の心細さは鳴りをひそめ、ただその一瞬一瞬が次なる日への英気を養う。
陰から陽へと転ずるこの時間は、この神域でもより神聖さが増すのか、凛と張りつめた空気が肌にぴりぴりとした刺激を齎す。
白く淡く立ち込めた霧が視界を奪うが、優しく目隠しをするようなそれには恐怖感は伴わない。
一歩踏み出せば、遠くで鈴の音が響くのがわかる。
「ここは」
青年はいつの間にか踏み入れたこの場所に、どこか懐かしさを感じて周囲を確認する。
先程まで眠っていたはずだ。それが今は、きちんと外套まで着込んで、靴も履いている。
しかし踏みしめた土の感触は曖昧であるし、ただ皮膚と背筋が、何ものかを感じている。
悪いものではない、けれど、緊張を伴う「ナニカ」。
「・・・・・こちらだ」
霧がうっすらと晴れた場所に朱色の鳥居が現れる。その数は思わず立ち竦んでしまうほどだが、呼ばれる声に呼応するように足が動き出す。
一歩、また一歩と進むのに、鳥居は瞬く間に後ろへと過ぎ去り、己の一歩とこの場所での一歩の違いを感じる。
ここは一体どこなのか。青年はわからないが、それでも歩を止めるという選択肢はなぜか用意されていなかった。
「よくきた」
社とでもいうのか、古びた建造物がそこにある。気配が濃密に、濃厚に立ち込め、息をするのもためらうほどに濃い。
先程から感じていたぴりぴりとした肌を刺すような痛みは、上から下から内へ外へと全てのものをある場所から叩きつける激しい痛みに変わった。
抑え付けられるような、息苦しいような感覚であるのに、青年はそれが『苦痛』だとは思わなかった。
「ここは」
神経が、細胞が、魂が。全てが入れ替わるような、新しいもの、清浄なものへと移り変わるような感覚。
この神聖な空間が、いままでの穢れを嫌うように、新しく無垢なものを求めている。
ならばここで息をするためには、この痛みを受け入れなければならないのだろう、直感として理解した。
「どこですか」
場所を問うた青年に、気配は少し緩む。ぴりぴりとした感覚が僅かに和らぎ、温もりが与えられる。
「ふむ、そうさな」
こちらの方が話しやすいか。気配はぐるぐると寄り集まって一点に集中したかと思うと、そこで人型を取る。
脳に直接呼びかけるような声は、一転して音となり鼓膜を経由するようになる。
人型を取ってはいても、光が強すぎてそこに在ることしか青年には認識できなかったが、その人型が腰を屈めたことはわかった。
「ここは我の内、そしてお前の内」
「俺の・・・?」
訝しむように口から発せられた音に、気配は大きく頷いたのはわかった。
「そうだ、お前のだ」
青年は意味が分からずに、沈黙を保つ。
脳内では忙しなくその意味を精査するが、それでも納得できる答えは出ない。
脳までも刺激を受け、全ての新しい細胞へと生まれ変わったかのように、いままでとは違うパフォーマンスを見せるかと思ったが、そうではないらしい。
内側から生じる熱は、周囲と適応し始めて境界が曖昧になっていく。
「ここが、俺の・・・・・」
「そして我の内だ」
パラドックスのような問答に、光が差したのはその瞬間だっただろうか。
眩しくてよく見えなかった気配の表情が、正しくは相貌が視えた気がした。
二つの眼の色、そして目許の特徴。
神気と形容するのが正しいのかはわからないが、気配自体は尊大で神聖で強い。
その気は己とは似ても似つかぬものであるが、確かに。
「俺の、内」
「そうだ」
確かめるように辺りを見回す。
ここが己の内側だと云われても、すぐには納得がいかないし、実感なんぞ湧くわけがない。
それほどまでに、いま、否これまでの自分とはかけ離れた神聖な場所。
身の内にどろどろとした、遣る瀬無さや悔しさを溜めこんで、その澱みに脚を取られて溺れそうになっていた。
「溜め込みすぎるな」
「・・・・・・」
「囚われすぎるな」
真に己を縛っているものを自覚しろ。
自分と同じ双眸に、そう告げられる。過ぎてはならぬと。
青年は瞳を閉じる。
胸の内にあるものをもう一度確かめるように深い呼吸をひとつ、そしてもうひとつ。
ゆっくりと瞳を開けると、そこはもう、謎に包まれた霧の中ではなかった。
「もっと」
掠れた自分の声が耳に届く。
『わがままになれ』
あの気配がいった言葉が、頭の奥で響く。
手足に取り付けられた鎖は、一体誰がつけたのだったか。
常識や、他人からの評価、そして自制心。
生きていく上での必要なものは確かにあるが、それでも不必要に縛りつけたのは一体誰だったのか。
あの場所では、澱みはなかった。それどころか、神聖でまったく無垢な存在だった。
常に新しく生まれ、常に新しい世界が広がる。
停滞し、澱みを作ったのは、一体何だったのか。息が苦しいともがいていたのは、溺れそうになっていたのは。
「錯覚だ」
明日がくるなど、誰にも保証はない。
時は常に動いていて、今日という日は二度と来ない。
いままでの常識すら、長い時、広い世界を見てみれば一時の気の迷いといえるような危うさを孕んだもの。
ここに留まる必要はない。ここに留まらねばならぬ理由もない。
ここがダメならば、もっと別の場所を探せばいい。自由に息ができる場所を。
「もっと、わがままに」
どこにいってもそんなものだと、呪いの言葉を周りは吐き、呪縛をかけるけれど。
そんなことでは、どこでもやっていけないと、頑張るしかないのだと、思い込ませる。
そうして誰かの足に鎖をつけ、生きる気力を削ぐ。逃げられないように、逃げるという選択肢など存在しないように。
否、逃げるのではない、他の選択肢を選ぶという行為があるだけだ。何も否定的な意味はない。
「もっと」
わがままに。
胸の内に確かにある、あの神聖な無垢な存在。善いも悪いもないのだ。ただ選んで前へ進むだけ。
己が屈辱に耐える理由も義理もない。それ以上にやりたいものがあるのならば、ここに留まる必要などないのだ。
青年は着替えとパスポート、いくばくかのお金を引っ掴んで、その家を出る。
とにかく、変えよう。立ち止まっていては、何も変わらないのだから。
========================
お題:「そうさな」「もっとわがままに」「霧」
お題提供:たんぽぽ様
いまちょっと苦しく悩んでいるので、代わりに希望をもって進んでもらいました。
混沌(カオス)に揺蕩い
目覚める時を待つ
光の誕生に世界が喜ぶ
天と地が 水と空気が震え
すべてが意味を成す
笑い泣き 叫び唄い
己を忘れるほどに心動かされ
喜び哀しみ 怒り楽しみ
存在を生を確かめている
憎しみは憎しみを産み
喜びさえも憎しみを産む
妬み 恨み 羨み 嫉み
それだけ他者を意識して
他者の存在を認めて
他者を高く評価していて
自己の存在は曖昧に
自己を低く評価していて
可哀そうだな
可哀そうだ
哀れみの気持ちは蔑みではなく
同じ生き物として心が痛む
可哀そうだな
可哀そうだ
他者を叩くことでしか
自分を護ることができないだなんて
あぁ 本当に 可哀そうだ
混沌の内から生まれし魂が
いま拍動を続ける
他者を労わり慰める者が
光を抱いて眠っている
混沌を打ち破りし者よ
いまこそ光の剣もてこの世界を切り拓け
他者を貶めることしか知らぬ者に
嫌というほど慈しみの心で接せよ
暴力は要らぬ 暴言も要らぬ
その剣は 鍵となりて 毛布となりて
暖かく軟らかく包み込む
邪気に誘われることなきよう護るだろう
憐れんで欲しくないのなら 倖せになってみろ
これ以上ないくらいに 倖せになってみろ
何もできないと膝を抱える前に
一歩だけでも外を 世界に出てみろ
真の勇者は己であると 証明して見せよ
何が良いのか悪いのか それは理解できないまま
好きだという気持ちだけで 突き進んできた
そろそろ限界かな そろそろ苦しいかな
誰かのためではなく 自分のために
それでも虚しさは突然襲ってくるもので
誰かの琴線に触れるものが
誰かの琴線に触れないものもある
誰かが深く心動かされるものも
誰かにとってはどうでもいいことなのだろう
それはそのひとの価値観で
それはそのひとの人生で
関係ないのだと知ってはいても
良いとされるものの価値がわからず
真似だけでは生きていけない
本物を 自分だけの真実を
楽しい 嬉しい そんな気持ちが
自分がやらなくてもいいじゃないか
自分がこんなにもつらくならなくても
それでも
それでもね
やっぱり好きなんだもの仕方ないじゃないか
誰に認められなくても
誰に気づいてもらえなくても
言葉を紡ぐことは
やめたくないんだ
「蹴飛ばす」「アンダンテ・カンタービレ」「榛色(はしばみいろ)」
2015年12月6日 ネタ帳 コメント (2)黄金色の木の葉がはらはらと舞い散る。
ゆっくりと歩く時間は、忙しない日常からかけ離れていて。
「あぁ」
思わずため息を吐いてしまうほど見事な紅葉に辿り着き、脚を止めた。
すぐそばには紅が絨毯になってほとんど落ちてしまっているというのに、そこだけは時が止まったように色づいたまますっくとあった。
この時期の散歩は好きだ。
切なくも、物悲しくもなる季節に、色づいた木々を愛でると、少しだけ救われたような気持ちになる。
色づいて落ちても、また新たな季節に青々と茂る。
何度も繰り返し、繰り返し。
こうして寂しく思う日があっても、それは鮮やかに色づいて周りをはっとさせる。
散ったとしても、また青々と茂る。
大丈夫だ。何も哀しく思う必要はない。
哀しんでも大丈夫。それが色となるのだから。
いつの間にか心が躍る。歌でも唄いだすかのように。
口元に笑みが戻った。
やはり静かに自然の中を歩くのは、自分にとって大切なのだと思い知る。
『やっと笑った』
落ち葉を踏み踏み、その感触と音を楽しみながら歩いていると、そんな声がした。
正確には声がした気がする、という方が正しいのだろう。
声がしたという確証がない。
それでも何故か気になって、辺りを見回す。
やはり何もいない。空耳だったか。
「気のせい、か」
そう思い直して歩を進めることにした。降り積もった枯葉を蹴飛ばして、蹴散らしながら進む。
幼い頃よくこうして遊んだ。落ち葉のクッションを作ったり、絨毯の上に身を投げ出したり。
ただただ純粋に楽しかったあの頃を思い出し、楽しくなる。その気持ちのまま視線を上に移動した。
子どもの頃は空を見るのも大好きだった。雲の形や、空の向こうの世界を想像すれば飽きることなどありえなかった。
木々の向こうに広がる空は高く、どこまでも蒼い。青いというのは少し違うか。緑? 否、赤もか。
「あか・・・?」
夕暮れが近くなってきたのか、とふと考えて頭を振る。
家を出たのは昼を過ぎたばかりだったはずだ。そこから車で1時間、山の中で30分だとしても、これはおかしい。
雲に乱反射している色とも違う。
視界に移る紅葉が滲んだ訳でもない。
泣いていたのは事実だが、涙で滲んだ紅を空に移すほど混乱してはいない。はずだ。
「いったい」
なにが起こっているのか。
もう一度空を見やると、先程よりも多くの色が渦を巻くようにして蠢いている。
蠢いているというと少し禍々しい気もするが、他に適当な言葉を知らないので勘弁してほしい。
混ざり合い、溶け合い、融合し、離れてはまた渦を巻く。
あちこちで光がはじけ、パステルカラーが辺りを侵食していく。
今まで見ていた景色が、気付けば見えなくなっており、栄華を誇るかのような黄金や紅はどこにもない。
足元さえもパステルカラーのふわふわしたものに変わっていて、試に何度か足踏みをするが、枯葉を踏むあの感覚も音もどこにもなかった。
実際に経験したことはないが、雲の上を歩くというのはこういった感覚のことをいうのだろう、ということはなんとなくわかった。
地面を踏んだ時のあの反発はない。かといってトランポリンとも違う。
強めに踏みつけても、ジャンプをしてみてもダメだった。
しかしながら、そのまま落ちてしまう、という恐怖はないのだから、不思議だった。
感触がないのであれば、どこまでもどこまでも落ちてしまいそうだが、その不安さえなかった。
確かにここに「立って」いられる。何故だか知らないが、そう確信していた。
「ようこそ」
このパステルカラーの世界の謎を解き明かそうと色々と試していると、ふとそこにひとりの少年が現れ、丁寧にお辞儀をしていた。
パッと見は少年、なのだが、ひょっとしたら少女なのかもしれないと思い直す。
聴こえた声は高いが、この年頃であれば男の子という可能性は捨てきれない。
とはいっても見た目で年齢が判断できるほど、単純な人間ばかりではない。
大人だな、って思えば10代だったり、はたまた10代にしか見えない大人がいたり。
なにより、こんな風に頭頂部から耳が生えていては、一般的な尺度というものは当てはまらないのかもしれない。
「久しぶりだね」
「・・・・・・耳?」
思わず口に出してしまえば、少年は嬉しそうに頷く。
「うん、そうだよ。ミミさ」
君が昔つけてくれたんだよ。
少年はそういって嬉しそうに榛色の瞳を細めて笑う。
昔、という言葉に多少ひっかかりを覚えながら、曖昧に頷いた。
「僕らは君の帰りをとても楽しみにしていたんだ」
「・・・僕ら?」
首を傾げれば、ほら、とミミは腕を動かした。
身体を捻るようにして示された方へと顔を向ければ、たくさんの耳の生えた少年少女たちがいた。
イスに座って寛いでいたり、楽しそうにゲームをしていたり、はたまた編み物や料理といったことをしているものもいる。
美味しそうにケーキを包ばっていたり、楽器を演奏しているものもいる。
何が何やらわからないが、気づいたものは手を振っていたり、本当に楽しそうだ。
「ねぇ、折角帰ってきたんだから、一緒に遊ばないかい」
答えを待たずに、ミミはそういってこちらの手を掴んだ。
小さな存在に手を引かれ、転びそうになる所を一歩足を踏み出して堪える。
だが次の一歩を勢いで出した時には、少年の目線が、それほど低くないことに気付いた。
「え」
口から出た音は、誰にも聴き咎められないまま、そのまま走る。
小動物のように転げまわる少年少女たちは、先程想定したよりも小さくないことに気づく。
手を引く少年さえも、若干身長差はあれど変わらない。先刻は手を引かれるだけでバランスを崩したというのに。
疑問はぐるぐると脳内を巡るが、すれ違い様に投げかけられる言葉や笑顔。
差し出されるお菓子を口に入れ、時折飲み物も飲んで、何とはなしに駆け回る。ひたすらに駆けた。
何故だかそれがとても楽しくて、どこまでも走って行けそうだった。
「ね、楽しいでしょう」
「うん!」
思わず全力で頷いていた。
こんなに笑ったのはいつ振りだろうか。
こんな風に笑えるということを本当に久しぶりに思い出した。
頷くこちらにミミもその仲間も飛び切りの笑顔を見せてくれた。
「あれ・・・」
暖かな気持ちに浸っていると、懐かしいメロディが耳を擽る。
ゆっくりと、歩くような速さでのびやかに、軽やかに、唄うような音色が、懐かしくて、何故だか涙腺が刺激される。
こんもりと雫が溜まっていくのを感じながら、それでもそれを止めようとは思わなかった。
優しい笑顔と、優しいメロディ。
「あんだんて・かんたーびれ・・・」
遠い昔に祖父に教えてもらった曲。
穏やかで、優しかった祖父の笑顔が瞼の裏に鮮やかに蘇る。
喫茶店のカウンターで、コーヒーを淹れる祖父にねだってかけてもらった。
高いスツールで脚をゆっくりと動かしながら頬杖をついた。
甘いココアの香りが鼻腔を擽り、とても倖せだった。
「じいちゃん・・・」
亡くなったのは10年以上前だ。
哀しくてつらくて現実を直視できなかった。
こんなにも優しくて温かな想い出を遺してくれていたのに、思い出そうともしなかった。
「僕らはいつでもここにいる」
「いつでも会いに来ていいんだよ」
屈みこんで嗚咽を漏らす彼に、ミミたちは寄り添う。
触れている温もりに安堵を憶え、段々と心が落ち着いてくる。
自分の中でケジメがついて、お礼をいおうと目を開けた。
「ごめ、ありが―――」
耳に届いた声はひどく掠れていて。
目に映ったのは、ぼやけたグレーの天井。
首を横に動かして辺りを確認する。
ウィンドゥ越しに見える景色は黄金と紅で埋め尽くされ、枝にはもうついていない。
「ゆめ・・・?」
誰に云うでもなく、自分に確認するように紡いだ言葉は、耳に届いた音に消えた。
優しいメロディ、唄うように、歩くような、懐かしい。
『傍にいるよ』
耳の奥で、言葉が聴こえる。
少年のような、少女のような、そして大好きな―――。
車のドアを開けて、一歩踏み出す。
カサカサと枯葉が鳴り、空気は冷たく清らかだ。
こうやって日常から離れて、自然に身を任せる時間が好きだった。
そしてそれは、休みの日の祖父に繋がる優しい記憶。
もう少し、頑張ろう。
もう一歩踏み出して。
===========================
お題:「蹴飛ばす」「アンダンテ・カンタービレ」「榛色(はしばみいろ)」
お題提供:たんぽぽ様
なかなか書く時間が取れず大遅刻ですみません!
書き始めて当初想定していた雰囲気が
どんどん変わっていくという不思議な感覚を体験しました。
時間をかけると、おもいも寄らぬ方向へと転がって面白いですね。
いつもノリと勢いで書き切ってしまうので新鮮でした。
ありがとうございました。
理解してくれない
嘘を吐くのはいいことなのか
嘘がバレそうなときに誤魔化すのはいいことなのか
約束を破って平気でいることはいいことなのか
2つまでは赦そう
見逃そう
3つ溜まったら爆発する
そういう約束だったのに
規定通りに怒っている
それを許容する約束になっている
許容しないのは約束破り
そういう約束になっているのに
それを破るとはどういう料簡だ
誰も味方がいない
約束したのに
約束破る
やっぱり証書でも書いてもらうべきだった
それでいいといったのはあなたなのに
どうして
どうして
こんな世界に生きる価値はない
破壊衝動を
精一杯の力で抑え込む
ならばせめて せめて
僕を殺してください
もう疲れました
嘘を吐くのはいいことなのか
嘘がバレそうなときに誤魔化すのはいいことなのか
約束を破って平気でいることはいいことなのか
2つまでは赦そう
見逃そう
3つ溜まったら爆発する
そういう約束だったのに
規定通りに怒っている
それを許容する約束になっている
許容しないのは約束破り
そういう約束になっているのに
それを破るとはどういう料簡だ
誰も味方がいない
約束したのに
約束破る
やっぱり証書でも書いてもらうべきだった
それでいいといったのはあなたなのに
どうして
どうして
こんな世界に生きる価値はない
破壊衝動を
精一杯の力で抑え込む
ならばせめて せめて
僕を殺してください
もう疲れました